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荻上紘一

おぎうえ・こういち

東京大学理学部卒業。東京都立大学(当時)総長、公立大学協会会長などを経て現職。東京都立大学名誉教授。中央教育審議会大学分科会副分科会長、国立大学法人評価委員会専門委員など。

Between(株)進研アドが発刊する高等教育のオピニオン情報誌
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[教育への信頼の獲得]

「学び続ける力」で
汎用的能力+社会的要請の変化に対応


(独)大学評価・学位授与機構教授 荻上紘一

大学が人材育成において社会からの信頼を得るためには、何が必要なのか。また、大学と社会のコミュニケーションはどうあるべきか。中央教育審議会の大学分科会やキャリア教育・職業教育特別部会の委員を務める荻上紘一教授に聞いた。

学位の質保証が大学の社会的責務

 大学と社会との接続において、最も問題とすべきは、学位の質保証だ。大学を卒業すると学士の学位が授与される。しかし、それはある大学のある学部を卒業したことを証明するものにすぎない。
  日本の大学は入るのは難しく、出るのは易しいといわれてきた。しかも、近年は学力試験を課さない入試による入学者が全体の5割弱を占め、学力低下が顕著になっている。学力不足を知りながら入学させ、きちんとした力を身に付けさせないまま送り出す。これでは卒業証書の「自動販売機」といわれても仕方がない。
  学生を受け入れた以上、一定の力を付けて社会に送り出すことが、大学の社会的責務である。その前提として、各大学は、どういう力を持った人材を育てるのか、社会に明示する必要がある。「本学の卒業生は、○○が、○○というレベルまでできる」という具体的な情報があって、初めて企業も自社に必要な人材であるかどうかを判断できる。
  例えば、秋田県の国際教養大学は、卒業要件として1年間の海外留学を終えた者、などを掲げる。また、留学するにはTOEFLのスコア550以上、GPA2.5以上、などの要件を満たす必要がある。厳しい条件を課しているため、4年以内での卒業率は他大学に比べて低いが、卒業生の力が見えやすいため就職率は高い。このような具体的な卒業要件を社会に示すことが、これからの大学には求められるだろう。
  ただし、大学が社会のニーズに応えようとするあまり、社会や企業に対して迎合的になってはならない。世の中が今、求めている力と、20年、30年先に求められる力は同じではないはずだ。大学4年間で学べることはそれほど多くはないし、数年もすれば古びてしまう知識もある。すぐに使えるスキルの習得のみであれば、それは大学の役割ではない。
 2008年12月の中教審答申「学士課程教育の構築に向けて」において示された学士力は、まさに時代が変わっても必要とされる汎用的能力として考えられた参考指針だ。どのような分野を専攻しようとも、学士が共通して持つべき力といえる。大学は、学生が卒業要件を満たす力を身に付けたことを見届けて社会に送り出す。それなくして、社会からの信頼を得ることはできない。


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