VIEW21 2000.9  特集 危ぶまれる生徒の学力

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★教師の声★
基礎・基本や学習習慣が身に付いていない


図1 生徒の学習内容・基礎学力の定着度  '99年辺りから、「学力低下」が新聞や雑誌、テレビで取り上げられるようになった。しかし、それ以前にも現場の教師からは「生徒の学力が低下しているのではないか」という声が聞こえていた。それが今、表面化してきたのだろう。
 それでも、「生徒の『学力低下』は自分だけが感じていることでは」と考える教師もいるかもしれない。しかし、図1からも分かるように、小・中・高校の教師は、一様に生徒の学習の定着度が低くなったと感じている。また、大学入試センターが国立大95校の学部長約360人を対象に新入生の学力についてアンケートを行ったところ、「低下している」が7.5%、「やや低下している」43.7%、「変わりない」45.4%。「低下している」と「やや低下している」を合計すると「変わりない」を上回る結果となった。
 それでは、高校現場の教師は、どんな場面で生徒たちの学力が下がっていると感じているのだろうか。



「読み・書き・そろばん」力の低下

 「漢字が書けない、読めないという生徒が多いとは感じていましたが、ついにラ行のウ段やナ行のウ段を『む』と言う生徒が出てきました」
 漢字の読み書きが苦手な生徒が増えているとはよく聞く話だ。これらの問題は、小学校でドリル学習が、以前ほどしっかり行われていないことがその原因と言われている。それは計算にも言える。計算に関しては「正確に速く解くことができない」「分数、小数、比例の計算ができない」「方程式を立てることができない」などの声が聞かれる。
 「読み・書き・そろばん」力の低下は、国語や数学だけの問題ではない。
 「化学の授業で練習問題を解かせても、分数計算で間違えたり、基本的な方程式を立てられない生徒が増えました。分数の約分ができない生徒もいます。そのまま計算するので、非常に時間がかかり計算間違いもしやすいです」
 計算力の低下は物理、化学などの理系科目に、漢字力の低下は日本史や地理の地歴、公民の学習に影響している。

学習習慣が定着していない

 塾の影響で、自分でどのように勉強をすればよいのかが分からない生徒が増えている、という話もよく聞く。
 「辞書を引く習慣がないようです。面倒なのかもしれませんが、教科書ガイドを丸写ししてくる生徒がいますね」
 予習・復習の進め方が分からない生徒が増えただけではない。授業の受け方にも変化が見られるという。
 「私の板書は、そのまま写しただけでは、後で見ても分かりづらいものだったんです。板書に加えて、私の話したことも一緒にノートにメモするか、あるいは板書は教科書にメモする程度にして、大切な箇所に自分で線を引くなどさせていたのですが、それができない生徒が増えました。今は重要なことをすべて書いたプリントを配布しています」
 授業の受け方まで指導しなくては、勉強できない生徒が増えているようだ。

学習への意欲も低下

 「問題を解こうとする生徒が減っています。授業中に問題演習の時間をとっても、鉛筆も持たずボーッとしている生徒は以前からいました。今はその数が増えて、黒板に解答を書き始めると、一斉に鉛筆が動き出す状態です」
 「『これはどういうことだと思いますか』『それはなぜでしょうか』という単なる答えではなく、理由を尋ねる質問をすると、即座に『分かりません』という答えが返ってくることが多くなりました。こちらはそれほど難しいことを聞いているつもりはないんですが」
 生徒は、自分で考えようとはせず、答えが差し出されるのを待っているように思える。今の生徒は、自分で学習する方法が身に付いていないだけではなく、学習しようという意欲を失っている。それをいかに引き出すかが、今、教師に求められている。


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