VIEW21 2001.06  特集 授業と家庭学習の連結を考える

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学習状況分析
生徒を「自発的な学び」に導くために必要なものとは?

「自己実現のため努力が必要」と分かっていても、
学習には結び付かない

 ベネッセ文教総研の調査によると、高校生の自己実現への欲求は強く、「夢」を実現し「結果」を残すためには時間をかけて努力しなくてはいけないと81%が思っている。しかし、自己実現に向けて学習している生徒は15%にすぎず、64%の生徒が学習時間が不足していると感じ、時間の効率的な活用ができていないことに不満を持っている。
 またベネッセ教育研究所の調べでは、学校の授業について「先生の話をよく聞く」が77%、「授業中にノートをとる」が89%に達している反面、授業中に「いねむり」や「おしゃべり」する割合は60%前後(「よく」+「ときどき」している)に達している。なぜ、生徒たちは授業に集中できないのだろうか。その要因をさぐる一つの方法として、「時間」に対する反応を定量化したのが図2だ。このデータによると「苦手な科目」の授業について「長く感じる」生徒は86%(「とても」+「やや」の合計)に達している。このあたりに学びからの「脱落」が発生する要因の一つがあるのではないだろうか。
 平日(授業のある日)、家庭で1時間以上かけている生活行動のトップは「テレビを見る」(86%)だが、図2によると「好きな科目の授業を受けているとき」は「テレビを見ているとき」と同様「短く感じる」生徒が6割(「とても」+「やや」の合計)に達しており、ほとんど変わらない。

図2 「時間を長く」感じるか−高校生の反応

 このことは、生徒たちを「学びの行動」に突き動かすものが興味・関心に裏付けられた意欲(モチベーション)であることを改めて教えてくれる。「ヒトなら誰でも学ぼうとする」ということが常識でなくなったと多くの教師が指摘するが、「好きな学び」に対しては能動的であり、この「常識」は必ずしも崩れていない。
 76%にも及ぶ教師がこれから重要となってくる指導として「生徒の自己理解を深めること」を指摘していた(ベネッセ文教総研'97年調べ)が、これは、「やりたいことや好きなこと」を発見させるだけでなく、「学び」の目標やその結果獲得される到達点を生徒に示すことなのだ。
 人間が自分の目で見ることができる範囲は狭い。視野を広げ、他者の視点で物事を見つめるためには経験が必要であり、テレビ(映像)を見ることを一概には否定できない。様々なメディアによって獲得した知識や情報を自分の「生き方=なりたい自分」に対応させて、どう組み合わせて使うのかを「考える」ことは、生徒個人に委ねられている。「なりたい自分」(目標)が描けていないと知識や情報を自分のものとして活用することはできない。
 「読書離れ」が指摘されて久しいが、映像よりも活字の方が類推したり想像する力(考える力)が働くため、幅広い考え方ができたり、自己相対化がしやすい。英語で全国偏差値58を越えるためには「知識や情報をどこまで自分のものとしているか」がポイントであり、同様に国語のポイントとしては「抽象度の高い文章が読めるか」が課題だと指摘されている。学校での学習やメディアを通じて獲得した知識や情報を、自分の「生き方」とどう結び付けるかは、結局「思考力」の問題になる。
 「なりたい自分を描くことの大切さはよく分かっているのですが、なかなか形にならないのです」これは長崎県のある生徒の声だが、将来への希望が持ちにくい状況の中で、高校生は「やりたいことを見つけようとしてもがいている」という実態が分かる。
 「なりたい自分」が描きにくい原因を社会の閉塞感に求めても、成長は期待できない。しかし生徒たちが未来に対する意思決定をしないと「学び」の成立と持続は危うくなる。この矛盾をどう解決するかが教育課題だと指摘する教師が増えている。


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