VIEW21 2002.2  Power for the Future
 生徒と一緒に考えたい「生きる力」

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横浜港大桟橋(おおさんばし)国際客船ターミナル
設計・監理

松澤憲一

エフ オー アーキテクツ リミテッド勤務

 私は今、横浜港で建設中の国際客船ターミナルの設計・監理の仕事に携わっています。完成まで3年を要する大規模なプロジェクトで、竣工後は世界各国から豪華客船が来航する海の玄関口となる予定です。建物のデザインを決めるコンペでは、世界中の建築家から約600もの案が出されました。そのコンペで優勝したのが、今、私が勤めている建築事務所が手がけたデザインです。柱や梁がなく、すべて曲線でつくられた斬新なデザインと、そこに秘められた様々なアイデアは、多くの建築家を引き付ける魅力を持っています。私にとっても、機能性だけではなく、同時に美しさも持ち合わせた建築物の設計にかかわるのは、一つの夢でした。でも、私がこのプロジェクトに携わるまでの道のりは、決して平坦ではありませんでした。
 実は、大学では政治を学んでいたんです。高校は大学の附属校で、自分がやりたいことを真剣に考えないまま、とりあえず内部進学したというのが実情。それがやっと見つかったのが、大学3年生の時だったのです。
 きっかけは、建築家の安藤忠雄さんが建てた家屋に出合ったこと。「都会に住む人が、自然を身近に感じられるように」というコンセプトで建てられたその家屋には、「天井のない部屋」がありました。常識が覆るような衝撃を感じました。自分の考えを実際の形に表現した結果、全く新しいスタイルの建築物が生み出される。「これはすごいことだな」って。それからは建築にのめり込んでいきました。
 その頃の私は、そろそろ就職について考えるべき時に来ていました。でも専門の勉強を全くしていない私が、いきなり建築事務所に就職できるわけもありません。建築以外の仕事に就くか、一から建築の勉強をするか……。悩んだ末、大学に再入学して建築を勉強することにしました。文系の私が理系の学部に入り直すなんて無謀ですよね。でも「建築家になれる可能性があるのなら、それに賭けてみよう」。そう決めた私は、周りが就職を決める中、数学との格闘を繰り返し、なんとか建築学科に合格できたのです。
 でも、授業では苦労しました。頭の中にイメージはあっても、技術不足で図面上にうまく表現できない。優秀な学生の作品を見て、なんて自分はダメなんだってしょっちゅう落ち込んでいました。それでも、新しい建築の知識が学べるのは、私にとって何にもまして幸せなことでした。


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