VIEW21 2002.4  コミュニケーション新時代
 生徒との時間をより大切にするために

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コミュニケーションの進化を図った学校の共通点

 本誌編集部では、昨年度1年間の取材で、生徒との時間を工夫してつくり出し、コミュニケーションを深めているいくつかの事例に出合った。
 業務を効率的に処理して時間をつくり出す例、生徒情報の共有化によって、一人ひとりの生徒を多面的に把握しサポートする例、インターネットや電子メールなど、複数のメディアの活用によってできるだけ生徒との対話の時間をつくり出す例など、その工夫は様々である。
 例えば、長野県の飯山北高校では、日常業務を変革することで、教師と生徒・保護者とのコミュニケーションの密度を、今まで以上に濃くすることに成功している。
 具体的には、高校入学時の願書から在学生の成績、卒業生の進路まで、共有サーバにより一元管理し、複数の教師が同じレベルで生徒に関する情報を把握することで、進路指導や生活指導を従来よりもさらに円滑に進めることが可能になった。
 また、資料を生徒や保護者に示す際も、ただ数値を並べるだけではなく、パソコンソフトによってグラフにしたり、カラープリンターで打ち出したりしている。視覚に訴える分かりやすい資料をつくることで、教師の言葉が今まで以上に説得力を増し、「同じことを言っても、以前は頷くだけだったのが、今では身を乗り出して見てもらえる」ようになったという。
 茨城県の茗溪学園中学校高校の授業も、「一人ひとりの生徒の表情が今まで以上によく見える授業」へと、ここ1年ほどで大きな進化を遂げた。それまで、教師は板書中、生徒に背を向けていたため、生徒の様子が分からなかった。また、生徒も板書を書き写すのに必死で下ばかり向いていた。ところが、プロジェクタとパソコンの導入で、教師は生徒の目を見ながら授業を進めることができ、生徒の表情を確認する機会や生徒に話し掛ける機会が増えて、コミュニケーションが確実に深まってきたという。
 2校に共通しているのは、教師と生徒とのコミュニケーションを深めるために、上手に情報技術(IT)を活用していることである。

あくまでも主役は教師と生徒

 いずれの例も、やみくもに情報技術を駆使するのではなく、あくまでも大切なのは教師と生徒とのコミュニケーションであるという軸を中心に据えている。学校の置かれている状況に合わせて、「コミュニケーション促進の道具」として情報技術を上手に活用しているのだ。
 飯山北高校の上平正明先生は取材時に「情報技術をうまく指導に活用するための工夫は、生徒や保護者とのコミュニケーションの在り方を真剣に考えることから生まれるのです」と強調した。
 文部科学省が推進する「ミレニアム・プロジェクト『教育の情報化』」において、現在、当初の04年度目標から前倒しで公立校における校内LAN整備などが進められている。高校現場においても、情報技術の基盤が急ピッチで整いつつある中、教師同士、教師と生徒、保護者、あるいは地域とのコミュニケーションの在り方を今一度振り返り、考え直す時期にあると言える。
 新たな「道具」をどのように活用するかという「視点」を持つことこそが、多様化する生徒一人ひとりの個性を活かす指導への大きな一歩となるのではないだろうか。

高校現場におけるコミュニケーションの可能性
生徒がより積極的になるコミュニケーションの在り方と情報技術を活用するときの方向性を探る

 情報技術を対生徒、対保護者、教師同士などのコミュニケーション・ツールとして見ていくと、そこには大きな可能性が秘められていることに気が付く。


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