VIEW21 2002.4  指導変革の軌跡 福井県立美方高校

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99年、美方高校は
創立30周年を迎えた。それと同時に同校では、教育目標を「豊かな心と確かな学力を培い、国際的視野に立ち、郷土を愛し、地域社会を担う人材を育成する」とし、はっきりと地域との連携を掲げた。ちょうど機は熟していたようだ。長谷先生が赴任した当時、20%を切っていたPTA総会の出席率は、いつの間にか65%を超えるようになっていた。30周年と同時期に、以前からあった体育後援会が、学校の活動全体を支援する組織として美方高校後援会へと発展した。同窓生やPTAで活動をしていた保護者などを中心に、地域の人々が続々と後援会に加入し始めた。
 美方高校が地域の人々から再び信頼を得たのは、やはり学校改革を成し遂げられたことが大きい。中学校時代に成績下位層だった生徒が、同校入学後に大きく学力を伸ばす例が増え、「美方高校なら生徒を育ててくれる」という認識が広がっていった。同時に地域の意識も変わってきた、と長谷先生は語る。
 「この地方は人材が不足していて、弁護士や医者の数も足りないし、教師も自前でまかないきれていません。教師に関して言えば、若い教師が他地方から赴任してきて、数年したら入れ替わるといった状態がずっと繰り返されているのです。これではいけない、やはり地域を担う人材は、地域で育てなくてはいけないという気持ちが高まってきたのです」
 同校に対する地域の期待は、生徒たちも目に見えて感じているはずだ。例えば、教師の説得も聞かず、退学しようとしたある生徒がいた。ところが後援会に所属しているお寺の住職と料理店の店主が生徒の相談に乗り出し、中退を思いとどまらせたのである。生徒は無事高校を卒業し、現在は専門学校に通っている。生徒の成長を、学校だけでなく地域全体で支える雰囲気ができていた。
 近年、特色ある学校づくりの必要性が盛んに言われているが、長谷先生は、「あえて新しく特色をつくる必要はない」と言う。
 「どんな高校にも役割があり、存在理由があります。その役割が何かを洗い出していけば、それが自ずから特色となるのです」(長谷先生)
 美方高校にとっての役割とは、地域と一体になって生徒を育てるということだ。同校はその役割を果たすべく、学校改革を進めていった。今、美方高校は地域活性化の一翼を担う教育機関として、着実に地歩を固めている。

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美方高校では、生徒の多様な進路希望に対応するため、個別指導に力を入れている。休み時間や放課後には、進路指導室は教科や進路について相談に来る生徒でいっぱいになる。



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