VIEW21 2002.6  指導変革の軌跡 福岡県立八幡高校

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 1998年夏。茨城県つくば市で行われた教員研修会に参加していた佐伯順弘先生は、研修の合間をぬってつくば市内にある研究諸施設を見て歩いていた。理化学研究所、高エネルギー加速器研究機構、国土地理院……。つくば市には、国内で最先端の研究所が集中している。佐伯先生の担当科目は理科。最新の施設や設備を見学するのは、先生自身興味深いものだった。
 「この研究施設を、もしうちの生徒たちに体験させることができたら、私以上に受けるインパクトは大きいだろうな」
 八幡高校には、全国でも珍しく理数科が1学年に2クラスある。同校のある北九州市八幡東区は、新日鉄八幡を中心とした工業地帯を形成していた地域だ。同校には技術者を親に持つ子どもたちも多く入学し、卒業後は理系の学部・学科へと進学していた。理数科を2クラス設置しているのは、そんな教育環境を学校の特色づくりに結び付けたいという思いもあったからだ。
 だが同校は当時、ある岐路に立たされていた。構造的な鉄鋼不況により製鉄産業が八幡地域から次々と撤退していた。それに伴い人口減が続き、89年3月に9500人以上いた学区内の中学校卒業者は、98年3月には7000人弱にまで落ち込んだ。生徒数の減少は、理数科においても入学してくる生徒の学力や進路意識の多様化につながった。そんな中で、生徒の学習意欲や進路意識に刺激を与える効果的な取り組みが求められていたのだ。
 「本校の理数科の生徒の実力であれば、地元の大学の工学部や理学部には進学できます。でも視野が地元レベルにとどまっていたら、将来日本を担える人材には育ちません。そこで筑波にある最先端の研究所の施設・設備を見せることで、生徒たちに驚きと感動を与え、興味を外に引っ張り出したいと考えたのです」

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核燃料サイクル開発機構を見学する生徒たち。生徒はこの他、理化学研究所、筑波宇宙センターなど計10か所以上から、自分の興味のある研究所を選択し、グループで見学した。



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