ベネッセ教育総合研究所 ベネッセホールディングス
教養教育を活性化させるために 今、大学がなすべきことは何か
有本章
広島大高等教育研究開発センター長・教授
有本章
Arimoto Akira
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社会環境の変化を背景に改めて問い直される教養の重要性
 2002年2月、中央教育審議会(以下、中教審)は「新しい時代における教養教育の在り方について」の答申を発表した。
 同答申は「新しい時代に求められる教養」を、現在の自分の位置を見極めて将来の目標を考え、その実現のために「主体的に行動していく力」と定義付けている。そして「教養は個人の人格形成にとって重要であるのみならず、目に見えない社会の基盤である」として、国際社会において尊重される「品格ある社会」を実現するためにも、教養の「再構築」が必要であると述べている。
 中教審がこの答申により教養の重要性を訴えた背景には、近年の社会環境の変化と若者の意識変化に対する危機感がある。
 経済環境の変化による社会共通の目的・目標の喪失、少子・高齢化や産業・就業構造の変化に伴う家族や地域社会の変化、情報化の進展による人間関係の希薄化などを背景に、真面目に勉強したり何かを身に付けたりすることを軽んじる風潮が蔓延している。特に若者の間で「自我の確立を求め自ら学ぼうとする意欲」が減退しており、この傾向が社会の活力を失わせるのではないか――。
 閉塞感の漂う日本社会が活気を取り戻し、国際社会に確たる地位を築くためにも、今改めて、教養の重要性がクローズアップされているのだ。


「知識社会」で求められる思考力と判断力
 これからの時代に求められる教養教育の在り方について、広島大高等教育研究開発センター長の有本章教授は、次のように語る。
 「教養教育は考える力を身に付け、自分自身の判断で生きていける人間を育てるためのものです。これまでの社会は分業を基本にした『産業社会』でしたが、これからは知識を創造していく『知識社会』になります。『知識社会』では、集められた多くの情報を機械的・画一的に処理していくだけではなく、集めた情報を自分で整理し、つくり直していくスキルが要求されます。考える力、判断する力、創造する力がこれまで以上に重要になり、またそういう能力を持った人が社会で評価されるようになるのです。これからの『知識社会』を生きていくためには、様々な角度から物事を考えて問題解決できる能力が必要であり、そこで重要になってくるのが『教養』なのです」
 しかし現実には、教養教育は大学生にあまり人気がないようだ。総合大学など教養教育を重視する多くの大学では、学生に教養教育の重要性を理解させ、主体的に学びに向かうように促しているが、思うように効果が上がっていないのが実状である。同センターの行った学生調査のデータを見ても、教養教育を中心とした学部教育に対する学生の評価は総じて否定的なものが多く、人気の低さを物語っている(図1)。
図1
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