ベネッセ教育総合研究所 ベネッセホールディングス
法科大学院の設立によって法学教育はどう変わるのか
吉本健一
大阪大大学院法学研究科教授
吉本健一
Yoshimoto Kenichi

三成賢次
大阪大大学院法学研究科教授
三成賢次
Mitsunari Kenji
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「点」の選抜から「プロセス」を重視した法曹養成を目指す
 法科大学院は、高度な法律の知識と実務能力を兼ね備えた法律家を育成する新しい法曹養成機関である。その法科大学院の設置準備が11月末の認可を目前に、いよいよ大詰めを迎えている。
 01年、司法制度改革審議会は「法曹養成に特化したプロフェッショナル・スクール」として法科大学院の設置を提言。その後、02年に中央教育審議会から設置基準に関する答申が打ち出され、同年11月に関連法案が成立、04年4月に法科大学院が設置される運びとなった。現在、国公私立合わせて72大学(国立20校・公立2校・私立50校)が設置認可申請中で、各校とも教員の確保やカリキュラムの整備、施設の充実を急いでいる。
 今までにない法曹養成機関の誕生である。では、なぜこのような教育機関を新設する必要があったのか、まずその背景から見てみたい。
 一つは、今後見込まれる法曹需要の増加と、訴訟案件の多様化・高度化への対応である。現在、国を挙げて取り組んでいる知的財産権の問題をはじめ、経済や金融のグローバル化に伴う企業間紛争の激化、地球規模の人権問題・環境問題、医療過誤、労使関係の紛争など、法曹の活躍の場は広がる一方だ。
 それにもかかわらず、日本の法曹人口は主要先進国と比較しても極端に少ない。97年の国際比較によると、法曹一人に対する国民数は、日本が6300人であるのに比べ、アメリカ290人、イギリス710人、ドイツ740人、フランス1640人。「訴訟社会」と言われるアメリカの290人は別格として、その他EU諸国と比べても、日本の法曹人口の少なさが際立っているのが分かる。しかも、日本の法曹人口は極端に都市部に集中しており、地域によって享受できる法曹サービスに偏りができているのである。そこで現状、年間1200人程度いる司法試験合格者を、2010年頃には3000人程度にしていくと共に、法律家の地域偏在を是正することを目指している。
 さらに、法曹の「質」の問題もある。難関の司法試験を突破するために、予備校に過度に依存する傾向が強く、受験テクニックだけを磨いて法曹界へと進む者が少なくない。
 大阪大法科大学院設置委員会委員長の吉本健一教授は次のように述べる。
 「人とのかかわりの中で紛争の解決に当たる法律家にとって、幅広い教養や人間に対する深い洞察は不可欠です。従来の司法試験という『点』の選抜だけに頼っていたのでは、そうした人間性豊かな法律家を育成することはできません。そこで、司法試験の前後にある教育と司法試験合格後の修習までを見通した『プロセス』に重きを置いて、じっくりと養成していこうということになったのです」
 つまり、一つの「狭き門」をくぐる司法試験だけで法律家の適性を判断するのではなく、専門的な教育機関の中で時間を掛けて教育することで、質・量共に法曹の充実を図ろうというのである。その「プロセス」の中核機関として位置付けられているのが法科大学院なのだ。
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