ベネッセ教育総合研究所
特集 広報が学校を活性化する
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新たな理念を地域に浸透させた学校説明会
 民間人も含めた議論の末、エンタープライジング科の教育の柱は、
1)英語運用力・情報活用力を駆使して自らの意思を世界に発信する創造的コミュニケーション能力を開発する。
2)経済・社会の動きをグローバルな視点から敏感にとらえ、創造的な提案ができる豊かな経済センスを育成する。
3)1、2をベースに高度な普通教育を展開して、国公立大を中心とした4年制大学への進学を進路目標とする。
という3点に集約された。3年間で生徒を社会に送り出す「完成教育」システムから、大学進学を前提とする「継続教育」システムへの転換が図られたわけだ。しかし、せっかく確立したビジョンがすぐに地域に浸透したわけではない。開設準備メンバーでもある三原通永先生は、特に中学校における認知度の低さを痛感した。
 「新学科設立を受け、02年度初めから通学圏内の中学校50校ほどを訪問したのですが、『商業科の名前を変えただけではないのか』『普通科とどこが違うのか』といった質問をされることもありました。さらに、『エンタープライジング科』というネーミング自体に不信感を持たれ、進路担当の先生に取り合ってもらえないこともありました」
 しかし、学校説明会を開催しようにも校舎はまだ改築中で場所はない。そこで同校では教育委員会と折衝の上、かつて環境サミットなどでも使われたことのある京都国際会議場を借りて学校説明会を実施することにした。収容人数2500名を超えるこのホールでどのような説明会を行うべきか、開設準備メンバーの吉田明先生を中心に精緻な計画が練られていった。
 「説明会のコンセプトとして考えたのは、できるだけ教師のレクチャー部分を減らし、実際に入学した生徒が受けるであろう、授業の様子を再現して見せることでした。中学生や保護者が対象ですから、目で見て端的に分かるプレゼンが必要だと考えました」
 特に教育の柱である英語の授業、コンピュータの活用については、実際に授業の様子を教師たちが再現する形でプレゼンが行われた。
 「実践的な英語運用能力を身に付ける新たな手法として、英語科では、洋画や音楽、最新の音響機材を活用したECC(※)という新たな教育手法を取り入れています。そこで、学校説明会では、英語科の教師たちが実際に寸劇を演じながら、新しい英語教育の姿を参加者に示しました」(三原先生)
※ECC(English Communicative Competency)…教科「エンタープライジング」の英語運用能力養成科目のひとつ。
 ディベートを採用したり、Webで情報収集しプレゼンしたりするなどして、英語表現能力を養成する。
 下記の図1は実際に使われたシナリオの一部である。教師一人ひとりの役割分担はもちろん、会話の一字一句、分単位での時間配分に至るまで精緻に作りこまれている。同校の教師たちは、本番の一か月前からリハーサルに励み、このような精緻なプログラムを作り上げたのだ。もちろん、コンピュータを使った授業や、学校設定科目「エンタープライジング」の説明等にも同様の手法が活用され、会場から好評を博すことができた。
 「02年度に行った説明会ではまだ生徒がいなかったのですが、一期生が入学した03年度の説明会には、生徒も壇上に上がって授業の再現を行いました。入学後1年で、どれくらいの英語運用能力やコンピュータスキルが身に付くのかを具体的に示せたので、特に中学生からは高い評価をもらうことができました」(吉田先生)
 生徒の参加は、壇上でのプレゼンだけにとどまらない。受付や会場の観客誘導といった裏方業務まで、生徒のボランティアによって行われたのだ。教育企画部の森良徳先生は、この点に大きな教育効果を見いだしている。
 「生徒がプレゼンに参加することは、自分たちが今学んでいることの意味を、改めて確認することにもつながっていると思います。学校説明会は、外部に対するプレゼンであると同時に、エンタープライジング科のアイデンティティを生徒たち自身が受け継いでいく契機にもなっていると思います」
図1


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