ベネッセ教育総合研究所
特集 進路学習の深化を探る
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1 「揺さぶり」を重視した進路学習
 図1は、総合学習の場を軸とした同校の大まかな進路学習の流れである。
図1
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難関大志望者が多い同校では、3年次より志望大群別のクラス編成へと移行する。そのため、生徒たちは2年次中盤までには志望大決定に至らなければならないという制約がある。短い期間で納得度の高い進路決定を可能にするため、同校では、進路観育成に向けた仕掛けと小論文学習を融合させ、生徒自身が活動の意義を自覚しながら進路決定に至ることのできるプログラムが組まれている。

1年次の場合、前期は職業研究・職場訪問を中心に、後期では学問研究中心の活動を行う。2年前期には学部・学科、志望校研究、後期には課題研究論文の取り組みが続く。各活動で得たことを生徒が振り返り内省するための活動として、研究成果を文書化する小論文学習が随時取り入れられているが、このプランには一つの大きな特徴がある。それは、職業→学問→大学という流れを、必ずしも直線的に進路を「絞り込む」経路とは考えていないことだ。1年次の職業研究・学問研究はあくまでも視野を広げるための活動とし、進路を絞り込むための活動は、2年次になってから一気に実施するものと位置付けている。進路指導主事の鶴田先生は、その意図を次のように説明する。
 「多くの生徒は家庭と学校の往復という狭い社会で暮らしています。そんな中で職業→学問→大学という回路にいきなり生徒を導いては、納得度の高い進路選択を行うことはまず無理だと考えました」
 この点を辻太嘉志先生はこう付け加える。
 「1年次の冒頭には、活動の意義と目的を生徒に把握させるため、ガイダンスを実施しますが、その際にも『この活動の目的は生きがいや、社会との関わりを見つけるための一つのきっかけにすぎない』と生徒に伝えています。このような意識付けは、日々の授業の中でも随時行うように留意しています」
 つまり、職業研究のメインは、職業情報の収集ではなく、「その職業を通じて従事者が社会の諸問題とどう関わっているかを考える」ことに据えられているのだ。
 その狙いを受けて、取り組みの内容は、進路学習と小論文とが融合したものとなった。
 「進路学習をいくら行っても、自分の生き方と結び付けて考えることができなければ、単に情報を蓄積しただけで終わってしまいます。実際、進路学習の見直しに着手した01年度には、『書く活動』を取り入れておらず、多くの生徒が『調べただけ』で終わってしまっていました。そこで狙いを、調べ学習と小論文指導の融合を図り、(1)世界における自己の位置と自己を取り巻く世界への視野を広げる、(2)『なりたい自分』について深く考えさせる、(3)自ら進んで学習する姿勢づくり、という三つに整理しました。調べた成果の意味付けをその都度図っていきながら、『進路実現のために有意義な高校生活を送らなければならない』という意識を生徒に持たせたいと考えたのです」(越智隆伸先生)
 更に、研究活動を行うに当たって、生徒には「記入見本」は絶対見せず、考えるべき観点のみを伝え、調査の過程を生徒が互いに見せ合う「中間報告会」を7月上旬に実施。様々な観点への気付きを促し、視野の固定化を避けるための仕掛けが指導プランの中にも随所に盛り込まれた。
 以上のような指導を1年の導入期に受けた後、同校の生徒たちは7月中旬に設けられた職場訪問に臨む。生徒はそれまでの文字情報中心の調べ学習では分からなかった情報や、社会人の生の声に、初めて触れることになるのだが、その位置付けは以前のものとは明らかに変わったと言う。
 「本校では職場訪問は、そこで働く人たちの『人生に対する考え方』を知る場として位置付けています。社会の空気を肌で感じ、『自分はどう生きるのか』という次元まで問題意識を高めないと、生徒が本気で自分の将来を考えるのは難しいと考えています」(丹宗先生)


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