ベネッセ教育総合研究所
大学改革の行方 大学競争時代の幕開け〜グッド・プラクティス
黒田光太郎
名古屋大大学院工学研究科教授
高等教育研究センター長
黒田光太郎
Kuroda Kotaro
1949年福岡県生まれ。九州大大学院工学研究科博士課程単位取得退学。米国ケース・ウェスタン・リザーブ大客員助教授、名古屋大工学部助手を経て現職。現在、教養教育院統括部教授を兼任。
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Part2 事例1
名古屋大 授業支援ツールで教員の教育力向上
●取り組み名称…教員の自発的な授業改善の促進・支援 ●取り組み単位…大学全体 ●採択年度…04年度


「授業デザイン力」が授業改善のカギとなる
 FD(Faculty Development)とは、大学教員の教育面の資質向上を目的として、教員の再教育・再学習を促す取り組みのことである。研修や第三者評価など教育内容や教育方法の改善・向上のための活動全般を指すが、一般的には授業改善が中心となる。名古屋大では、98年に設立された高等教育研究センターによる教育改善の実践的な研究・開発を踏まえて全学的なFD活動を展開。04年度はその実績を評価され03年度(※1)に続き特色GPに選定された。
※1 03年度は「創成型工学教育支援プログラム」(工学部のみ対象)のテーマで特色GPに選定された。
 高等教育研究センターのFD活動のキー概念となるのが「授業デザイン力」である。授業デザインとは、一つの科目に対して到達目標、授業内容、授業のルール、授業時間外の学習、成績評価などの授業の全体像を設計することである。同センター長の黒田光太郎教授は次のように述べる。
 「授業デザイン力を身に付けるには、全体のカリキュラムにおける授業の位置付け、授業のレベル、受講者のニーズの3点を把握することが求められます。本センターのFD活動では、すべての教員がこの力を身に付けることを目指していますが、多くの大学が実施しているFD講演などの一斉・集団型の研修を強制するだけでは授業デザイン力を習得することはできません。教員が自発的・日常的・継続的に授業改善に取り組めるような、支援方法の構築が課題だったのです」(黒田教授)


Webサイトを利用し自発的な授業改善を促す
 そこで同センターが開発したのが、Web上で授業改善のノウハウやヒントを提供する「成長するティップス先生」と、その応用編である「ゴーイングシラバス」だ。「いつでも・どこでも・誰でも」をコンセプトに、Webを通して教員が自発的に授業改善に取り組めるよう設計されている(図4)。
図4
 この支援ツールの中心をなすのが「成長するティップス先生」図5)である。欧米で広く行われているティーチング・ティップス(※2)の日本版第一号で、授業の課題、授業運営のポイント、教育効果の検証手法、自律的な学習を促す仕掛けづくりなど授業改善のノウハウが満載されている。
図5
※2 ティーチング・ティップスはカリキュラムと教授法、評価法の質を総合的に高めるための大学教育のTips(秘訣・助言・ヒント・コツ)等をまとめたもの。欧米の大学では新任大学教師の授業ハンドブックとして作成されている場合が多い。
 本ツールの最大の利点は、読み進むうちに自然と授業デザイン力が身に付くところにある。例えば、「授業の基本」は授業デザイン力を身に付けるための教員用のノウハウ集だが、教授法を学ぶ機会がない教員に配慮して教育学の専門用語の使用は極力控えてある。また、「授業日誌」では「どのような教科書を用意するか」「書き方指導をしておくべきだった」など、授業デザインに関するティップス先生の悩みが綴られるが、悩みの一つひとつが本体の「授業の基本」の該当ページにリンクしており、クリック一つですぐに対処法を探し出すことができるのだ。
 その名の通り「成長する」こともティップスの特徴の一つである。「みんなの広場」に寄せられる利用者からの授業の悩みや工夫、大学の組織・制度に対する意見等は、随時ティップス本体のコンテンツに組み込まれ、新たなノウハウを蓄積しながら授業改善法のデータベースとして発展し続けるのだ。


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