ベネッセ教育総合研究所
大学改革の行方 大学入試改革の現状と展望
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大学学部における教育改革と入試改革
再び脚光を浴び始める教養教育
 入試で要求される力の変化は、このような新しい形態の問題だけでなく、教科・科目別試験にも表れている。冒頭述べたように、特に00年前後からはいくつかの具体的な変化が見られる。その変化の具体的な内容について触れるために、まず近年大学が求める要求学力が、なぜこのように変化・多様化しているのかを考えてみたい。
 戦後から90年頃まで、日本のほとんどの大学は大学学部の前半課程において人文・社会・自然科学などに関する一般教養教育を行っていた。この一般教養教育は、「進学適性検査」がアメリカの考え方に基づいていたのと同様に、同国のリベラルアーツ教育(※2)を参考に、本来は学問研究や高度な職業人養成のために幅広い教養を身に付け、総合的な視野を持った人材を育成することを目指していたと考えられる。
※2 リベラルアーツ教育:日本ではリベラルアーツ(Liberal Arts)とは大学で開講されている一般教養教育を目的とした教科を指す。アメリカでは、教養教育の基盤の上に、学問研究と職業人養成を一体化し、全人教育を理念に据えている。
だが、日本のそれは一般には縦割りの学問領域内での教育がほとんどであったため、本来目指すべきリベラルアーツ教育とは少し乖離があった。それでもこの教育制度が長く続いたのは、90年代頃までは、大学学部の後期課程で専門教育における基礎的知識を得るという点においても、中等教育の延長線上にあるという点においてもスムーズな接続の役割を果たしており、また社会からの要請もある程度満たしていたからであろう。
 そのような中、91年に大学設置基準が大綱化され授業科目や履修単位などの扱いに大学の自由度が認められるようになると、専門教育を充実させるため多くの大学は大学学部前半課程での組織的な教養教育をむしろ後退させてしまった。
 しかし、10年も経たないうちに多くの大学は教養教育の重要性を再考し始めた。その最大の要因は、急速なグローバル化や技術革新に、大学学部までの専門教育では教育水準が追いつかなくなってきたためである。高等教育機関はより高度になった専門教育を主に大学院で行い、学部では専門学問領域との関連を視野に入れたリベラルアーツ教育と専門基礎教育とを重視し、高等教育の入り口までの期間で「本質的に理解できた知識」をいかに活用できるかといった力を育てる教育を重視せざるを得なくなってきている(図1及び 図2)
図1
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図2
 当時の大学審議会は00年に改めてリベラルアーツ教育の重要性を説く中で、「グローバル化時代に求められる教養を重視した教育」「自らの立脚点を確認し今後の目標を見定め、その実現に向けて主体的に行動する力、すなわち新しい時代の言わば『行動するリベラルアーツ』」が必要と指摘している。つまり、これから目指すべき教養教育は10年以上前までに行われていた旧来の教養教育とは別のものであり、新しい時代を生きるための教養を獲得するための技法であると言ってよいかも知れない。

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