ベネッセ教育総合研究所
VIEW'S REPORT 新課程3年目を迎えた中学校現場
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2 絶対評価を基に授業を改善
Q
そのような動きの中で、高校現場が最も関心を持って見ているのは絶対評価についてです。中学校教師はどのような実感を持っているのでしょうか?
A

評価の手続きに膨大な手間が掛かることもあって、当初は違和感を覚える教師が多かったと思います。しかし、教育活動面のプラス効果を実感する教師が増えたように思います。
 プラスの効果の一つ目は、絶対評価の導入によって、生徒一人ひとりを今まで以上にきめ細かく見ることができるようになった点です。規準・基準に基づく評価をきちんと行おうとするならば、当然生徒一人ひとりをしっかり見なくてはなりません。絶対評価の導入が、生徒をきめ細かくフォローすることの重要性を改めて教師に気付かせたわけですね。
 実際、福岡市でも、絶対評価の導入当初は、保護者から「仕組みがよく分からない」「信頼性に乏しく不安だ」といった意見が寄せられることがほとんどだったのですが、最近では「先生が生徒を細部までしっかり見てくれるようになった」という声が増えてきています。教師の「生徒を見る目」の変化は、保護者の方々にも伝わり始めているようです。
 二つ目のプラスの効果としては、生徒の到達状況を踏まえた授業を行う意識が、教師の間に高まっていることです。以前であれば、教えた内容がきちんと生徒に理解されているかどうかを検証する視点は希薄でしたが、絶対評価の導入により、きちんとした評価規準・基準ができたことで、「現状ではC基準の生徒をB基準に引き上げるにはどうすればよいのか」、あるいは「そのためにはどのように発問の仕方や机間巡視のやり方を改善すればよいのか」といった突っ込んだ議論が盛んに行われるようになっています。例えば福岡市では、教育委員会が作成した評価基準の雛型を基に、具体的な授業法の改善が各校でなされています。高校現場には、「きちんと生徒の学力を伸ばす授業を行っているのか」という疑問もあるかと思いますが、絶対評価に基づく授業が適切に行われるならば、一定のレベルをきちんとクリアできている生徒の割合は今までよりも高くなっていくはずです。

Q

しかしその一方で、高校現場では新入生の学力低下が深刻な問題になっているとの指摘もあります。
A
そうした意識をお持ちなのは大学進学を前提とする進学校だと思いますが、その背景には、多くの中学校が「C基準の生徒をB基準にする」ことを優先するあまり、「B基準の生徒をA基準にする」ことにまで手が回り切っていない現状があると思います。
 精神的な発達度と学力の関係が密接に関連している中学校では、C基準にある生徒の多くは、精神的にも未成熟な部分も多いのです。そうした生徒を放置していては、全体の授業そのものが成立しなくなりますから、中学校教師の多くは、まずはそうした生徒を徹底的にB基準にまで引き上げることに力を注ぎます。
 しかし、中・上位の学力の生徒への指導に対しては、中学校教師も課題を感じています。現場の空気も、「まずは底上げが先決」という意識から、徐々に「伸びる子どもはもっと伸ばそう」という方向に変わってきています。特に近年は、家庭での自主学習習慣をどう身に付けさせるかが、大きな課題として認識されるようになり、家庭との連携を取り入れた学習指導をしようという気運が高まっています。中学校ではこれまで、授業法を熱心に研究する分、「授業内ですべてを完結させる」という意識を持つ教師が多かったのです。しかしながら、近年の生徒の学習実態の変化を背景に、基本的な家庭での学習習慣の確立も含めて、学習内容の定着を図ろうとする中学教師が増え始めています。学校週五日制による授業時間の減少、文部科学省が出した「学びのすすめ」の影響もある程度はあったのではないでしょうか。
図1


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