ベネッセ教育総合研究所
VIEW'S REPORT 新課程3年目を迎えた中学校現場
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3 高校は中学の指導をどう捉えるべきか
Q
学習内容が高度化する高校では、家庭での予習・復習なしに授業の内容を理解するのは難しいのが現状です。また、授業の内容自体も、予習・復習を前提に進められます。高校として中学校の取り組みをサポートできることはないのですか?
A
高校側からは、自学自習力を付けることが高校段階で伸びる生徒を育てるには不可欠であることを、中学校に積極的に発信してほしいと思います。その際は、高校段階での学習姿勢の課題、到達度から見る課題などを可能な限り具体的に示すことが必要です。学習指導を手厚く行うことを「点数偏重主義」とネガティブに捉える教師も少なくない中学校現場では、上位層への対応に未だ踏み出し切れていない面があります。しかし、高校から客観的なデータなどを踏まえた具体的な生徒育成の要求があれば、自信を持って対応を進められると思います。
 また、中学校の指導の変化を踏まえた上で、授業の進め方を見直す視点も意識してほしいと思います。現行教育課程へ移行してから、多くの生徒が感じるだろうギャップは、高校に入った途端、「授業を理解できているのかどうか確認する機会がなくなってしまう」ということです。先述したように、評価基準が明確な中学校の授業では1時間ごとに生徒が自己評価をする習慣があります。指導の実状に鑑みると、中学校と同様にというわけにはいかないと思いますが、短いタイムスパンで生徒が自らの到達度を理解できるような仕掛けを積極的に取り入れていただきたいと思います。近年は高校でもシラバス作成などが進んでいると思いますが、これを一つの突破口として捉えるのも一つの手法でしょう。

Q

絶対評価の導入による明確な到達目標の設定が、中学校の授業を変えようとしつつある現状についてお話いただきました。しかし、高校現場が最も危惧しているのは、中学校間で評価の基準や方法に格差が存在することです。同じ評定の新入生でも、実際の学力が異なるようでは、入学者選抜が機能しません。学校間で評価基準を合わせようとする動きはないのでしょうか?
A
入試の指標ということを考えれば、学校間で生徒の成績評価にばらつきがあるのは確かに問題です。私が知る限りでは、学校間で評価規準・基準を揃える動きも見られていないようです。とは言え、現在の状況は、相対評価の時代よりは、はるかによくなっているのではないでしょうか。というのも、相対評価に基づく評価では、本当に一定の学力が身に付いているのかどうか、本質的には評価されていなかったわけです。その点、現在の状況は「学校間比較」の指標としての機能は不十分かもしれませんが、「中学校が自校で設定した一定の指標を越えたかどうか」を測る指標としては確実に優れているでしょう。また、実施後3年を経て、絶対評価の精度自体もかなり向上してきています。「生徒の50%以上が5になった学校がある」といった報道もありますが、全体に見ると、最近では極端な隔たりは減ってきています。

Q

運用を重ねる中で、入試の指標としての精度は上がっていると見てよいのでしょうか?
A
少なくとも各中学校の内部でのブレは減少していると思います。ただし、高校入試が中学校の絶対評価を用いて行われる以上、学校間のばらつきが出てしまうのは事実ですし、問題でもあります。しかし、中学校が何より危惧しているのは、調査書の評定が信用を失い、高校の先生方に指導の資料として見てもらえなくなってしまうことです。そのため、成績評価の精度の向上については、おそらく高校側が想像する以上の努力を中学校側ではしていると思います。高校現場には「絶対評価は当てにならない」と考える方も多いと思いますが、結論を出すのはまだ早いと思います。
 だからこそ、今後は、中学校で育成すべき生徒像と、高校が求める生徒像をすり合わせていくことが重要です。これまでは中高が互いにそのズレを指摘し合うところで終わっていたと思うのですが、高校に求められるのは、評価の中学校間格差を批判するのでなく、高校での学習成果と中学校段階での評価のつながりを継続的にしっかり把握することではないでしょうか。これを契機と捉え、高校までのレディネスとして必要と思われる目標を発信するなどしてみるのも一つの手だと思います。
図2


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