ベネッセ教育総合研究所
大学改革の行方 工学部教育の変化と工学教育・研究の展望
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工学系学部・学科の展望と求められる人材
 以上、社会のニーズに合わせた学科の再編成や異分野融合による新しい価値の創造など、工学系学部教育の現状と今後を考察した。これらを踏まえて、今後、工学系学部進学における進路指導の視点はどのようになるのかを考えてみたい。
 前述のように、従前からの、対象とする産業に基づいた学科区分(電気・機械・化学・土木)によった大学教育は再編されつつあり、理学・医学・農学・経済学・人文社会学(心理学系)などの広範な学際研究が進められている。これからの工学部は、特定分野(学科)の深化ではなく、むしろ「基礎工学」をじっくり学び、学部卒業時に学科または学部を越えた幅広い専門領域の中から選択できる教育プログラムを構築していく可能性が高いだろう。つまり、「学科体制」での縛りを緩め、自由度とメニューの多様性を備える。時には、学部段階で複数の学科が再編されることがより加速されるであろう。また「創造性教育」の基盤形成のためにも「少人数教育」への整備も重要になるだろう。
 専門性の維持・深化と共に、工学系学部の「総合化」という視点が欠かせなくなるわけだが、この視点に立てば、これからの工学系学部、そして大学院で求められる人材像も見えてくる。
 東京大の雨宮教授は、「これからは益々、専門性の中に軸足を置きながら、異分野とコミュニケーションできる工学基礎領域の基礎能力、知識を持つことが求められるようになる」と述べる。特に、人と人の知識を束ね、融合させる中で、社会と環境に考慮しながら「革新性の創造と成熟度の培養」を行う力量が要求されると言う。モノ作りへの興味、論理的思考力、他者との濃密な接点とコミュニケーション能力の育成が、益々重要になってくるのである。
 更に、こうした能力を身に付ける前提となる素養として、雨宮教授は次の3点を挙げる。
 「一つ目は高い好奇心、二つ目は公的精神・使命感、そして三つ目は感動する心を持つことです。こうした素養を持っていなければ、モノ作りや真理を探究する場面で、前進することが難しいのではないでしょうか」
 これからの工学への従事者は、狭い専門領域に閉じこもるのではなく、「異領域や、社会、諸外国とのコミュニケーション(語学)がとれる力量」「論理的な分析力」「折衝力(交渉力)」が必要とされるのである。これらは、まさに「人間力」の養成に他ならないが、工学部での学びが専門領域、学問領域に限定された「研究マインド」だけであっては、立ち行かないことを意味しているのだろう。
 「産業構造の変化スピードは非常に速い。それについていくための適応力が重要となります。幅広い視点や複合的な思考様式を身に付ける必要があるため、MOT(経営マインドを持った技術者育成)や、ダブルメジャーなどの実践を東京大でも志向しています。また、人脈づくりが極めて重要であり、それを可能にする海外とのコミュニケーション能力は必須だと思います」(東京大・伊藤教授)

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