ベネッセ教育総合研究所
大学改革の行方 工学部教育の変化と工学教育・研究の展望
下河邉明
東京工業大理事・副学長
下河邉明
Shimokohbe Akira
1943年東京都生まれ。東京工業大大学院博士課程単位修得中退。同大助教授・教授等を経て現職。同大では研究担当として研究戦略室長を併任。専門はMEMS電磁気応用メカニズムなど。
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事例1 

東京工業大

活性化する工学の先端領域

学科間・研究分野間の壁を取り払う研究戦略室
 東京工業大は理、工、生命理工の3学部からなる理工系総合大学である。21世紀COEプログラムでは3年間に12件が採択されるなど、研究大学として圧倒的な強さを誇ると共に、「世界に通じる人材の育成」の中期目標の下で教育にも力を入れている。
 そんな東京工業大で近年、顕著な動きとなっているのが学科間、研究分野間での相互交流だ。東京工業大理事・副学長の下河邉明教授は次のように述べる。
 「今後は様々な分野を融合するところから新しいモノ(新領域分野)が生み出されていきます。新たな研究の芽を育てていくためには、学科間、研究分野間の壁を取り払うことで異分野の融合を促進していくことが重要になるのです」
 具体的な研究面での動きとしては、全学的な研究の基盤強化のため、01年に「研究戦略室」(室長は下河邉副学長)を設置。同組織が研究戦略の企画・立案・調整を統括することで、最先端の研究を効率的に推進している(図8)。
図8
 
細分化された組織を見直しミスマッチを防ぐ
 国立大学法人の工学部の在り方として、しばしば問題とされるのが、学科組織の過度の細分化である。東京工業大では学科間の相互交流を通して、細分化の是正に動き始めている。東京工業大では、学生は1年次に1〜7までのいずれかの類に所属して広範な基礎教育を受けた後、2年次から類に応じて各学科・コースに分属し、異なったカリキュラムで学習を進める。今後は、細分化された学科構成を見直し、類ごとに統合していく方向に進んでいくという。
 「専門領域に入りすぎ、工学系の学部・学科を細分化させてしまったことは、大学関係者の間でも反省があります。特定の専門に偏った教育をしていたのでは、これからの時代に求められる幅広い素養を持ったエンジニアの育成は難しい。そもそも大学進学時の志望学科とのミスマッチも、こういうところから生まれてくるのだと思います」(下河邉副学長)
 例えば、機械系の第4類では、学科間共通で受講できるカリキュラムの数を大幅に増やしたり、類の枠を取り払って共同で受講する講義を増やしたりして、学科間の壁を取り除く動きを進めており、同様の動きは他学科へも波及しつつあるという。
 更に、4大学連合(※1)を活用した他大学との人材交流も進んでいる。
※1 東京工業大は01年4月に東京医科歯科大、東京外国語大、一橋大との間で4大学連合を形成し、広範囲の学際的分野の知識を有した学生の教育と、編入学や複数学士などの方法による学生の選択肢の拡大を目指している。
「複合領域コース」を設置し、所属する大学で専門知識・技術を身に付けながら、他大学でも一つの専門分野を学ぶことができるようにしたのだ。これにより、例えば東京工業大工学部情報工学科の学生が、一橋大の経営系のゼミに参加するなど、より知識の幅を広げることが可能になった。

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