ベネッセ教育総合研究所
千の教育 千の実 教え子さんに教えられ
山下一夫

前佐賀県立唐津東高校校長
山下一夫
Yamashita Kazuo
生年月日●昭和昭和19年6月19日/出身地●佐賀県佐賀郡/趣味●読書、古寺巡礼/座右の銘●インターナショナルであるためにはナショナルでなければならない

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千の教育 千の実
教え子さんに教えられ


私は、
教職生活38年を終え05年3月に退職しました。教え子さんは何人になるのでしょうか。教え子さんの中には、高校生なのに素晴らしい発想の持ち主、今考えれば年齢の割に「よくできた人間」が数十人いました。その中でも一番私にいろいろ教えてくれたのは、最初の赴任校で、2年目に担任したH君でありましょう。彼の尊敬に値するところを紹介します。
  (1)彼は毎晩風呂で「新書版」平均200ページの本を2時間くらい湯舟に出入りしながら、1冊読了して風呂から上がったようです。3年間で約1000冊読み、友達がどんな会話をしていても加わってきては、最後には話のまとめ役をしていたようです。「教養」と「読書」の大切さを教えてくれました。
  (2)当時、私は同僚の先生のお宅の離れに下宿させてもらっていました。H君が午前2時くらいに私の部屋に遊びに来たときのことです。最初は政治や経済の話をしていましたが、20分もすると同学年の可愛い顔立ちの女の子の話になり、目は爛々と輝き、40分経つと「もう帰ります」と挨拶をします。「さよなら」と言ったのに戸口を離れません。「何してるんだ」と問えば、時計の秒針が12に来るのを待っていると答え、「来るときは走って3分30秒かかったので、帰りは3分25秒で帰ろうと思って」と。彼に時間の使い方と何事にも「挑戦」して自分を高めることの重要性と「意識」の大切さを学びました。
  (3)朝3時に近い時間帯での彼との会話です。「家に帰ったらもう寝るのか」「いいえ、これから300、単語を覚えます」「300挑戦したら、翌日いくつ頭に残っているか」「平均170くらいです」「残った130程はどうするのか」「毎日300語に挑戦してます。覚え残した130も含めて」。彼は高校1年の時に英単語一万語を覚えるのに、60日しかかからなかったわけです。「やる気」の大切さと「継続は力なり」を教わりました。
  (4)私は、教師生活の中で、彼にだけ通知票で英語100点を付けました。なぜなら中間、期末テストはすべて100点、毎日の小テストでもすべて10点満点。しかも教科書の例文通りの答えを答案に書きました。基礎・基本に忠実で、違う表現を知っていても決してひけらかしませんでした。学問に対して「謙虚」だったのです。「衒いすぎる」ことのいやらしさを教えてくれました。
  (5)彼はその後、法学部に進み、フランスとイギリスに留学し、24歳で司法試験に合格。合衆国に渡りロースクールで勉強した後、ニューヨーク州で弁護士をし、帰国して東京で外事物を扱う弁護士をしています。今は、30の会社の顧問弁護士をし、知的所有権、著作権関係の弁護を得意とし、世界を股に掛け活躍しています。「意識」して生きて「やる気」があれば、すごいことができるのですね。
  この前上京した折、食事の後、カラオケに行くと、「冬ソナ」のテーマ曲を歌っていました。今、52歳です。「ミーシャ」のチケットが欲しいと言っていました。若〜い。生徒さんは、いろいろ教えてくれます。教師って良い職業ですね。



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