ベネッセ教育総合研究所
特集 保護者と「共育」する学校づくり
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解決のヒント
接触機会の多少ではなく日常の中での密度を高めるべき
 多忙な業務の中で、保護者との接触機会を学校が増やしたとしても、それだけでは効果は薄い。まずは既存の取り組みを点検し、十分に機能させることが、保護者との連携を強化する近道であろう。次に挙げる4つの視点から、改めて考え直してみたい。
1 情報発信のタイミングと目的を考える
 多くの学校では、「保護者だより」「クラス通信」といった各種の情報媒体を保護者に向けて配付している。だが、それらが一体何を目的とし、どういったタイミングで配付されているのかについては、意外と無頓着なケースが多い。特に、内容の多くが学校行事の「事後報告」的なものになっている場合は注意が必要だ。効果的に保護者との連携を図りたいのであれば、各種学校行事、指導ストーリーとの連携を図り、「事前告知」の機能を充実させるべきである。
  例えば、「保護者だより」でPTA総会を扱う場合でも、結果報告として作成するだけではなく、事前告知の号も作成し、入学式後の時点であらかじめ渡すことなどが考えられる。また、その際に、総会に向けた「質問用紙」を同時に配付し、寄せられた質問に対して総会で各分掌主任が回答するといった仕掛けがあれば、作成した事前告知号が「読み捨て」られることを防げるのではないだろうか。
2 ニーズを把握し情報の双方向性を確保する 
 保護者に対する情報発信やアンケート等に力を入れている学校は多い。しかし、保護者から寄せられた意見に対するフィードバックまでは十分対応できていないところも少なくないと聞く。接触機会が多々あっても、そこで双方向のコミュニケーションが成立しているという実感がなければ、保護者の理解を得ることはできない。
  この点で参考になるのは、後出の愛知県立知立東高校の事例である。知立東高校では、定期的に実施する進路希望調査の用紙に、「保護者の意見・質問」欄を設け、保護者からの学校に対する質問を募っている。更に、それらに対する回答を進路指導部が責任を持って執筆し、保護者会の場で保護者全員に配付している。アンケートと保護者会をリンクさせることで、意見収集→回答の流れがシステム的に確立されているのだ。
  保護者からの質問への回答を、それを受けた個々の教師の業務としている学校は多い。しかし、それでは対応する教師によって回答が異なるという事態も起こりかねない。保護者との連携は、丁寧なフィードバックの繰り返しを、いかにシステムとして確立できるかにあると言える。
3 より密な信頼関係の醸成を意識する
 システム的な面での見直しに加え、3者面談や学級懇談会、家庭訪問など、保護者と直接向き合う機会についてもその位置付けを見直したい。共働きの多い今時の保護者にとって、学校へ出かけることへの時間的なストレスは大きい。そうした保護者に「是非行きたい」という期待を持ってもらうためにも、その場がお互いの信頼関係を構築する場となるよう工夫が必要である。
  保護者と直接顔を合わせる機会を今以上に増やすことは難しいし、学校の指導ストーリーとは無関係に接触機会を増やしても、個々の取り組みの意義が不明瞭になってしまう。ここでのポイントは、学校の指導ストーリーの要所をしっかりと押さえる時期設定を行い、かつ、教師と保護者の接触密度をできるだけ高めることにある。
  例えば、PTA総会や保護者会の実施にあたり、必ず学級懇談会をセットで実施したり、担任以外の教師も各種行事に参加することは、保護者と教師の人間的な信頼関係を醸成する上で有用であろう。後出の宮崎県立宮崎西高校はまさにこのようなアプローチで、学校と保護者の「顔の見える関係づくり」を進めている。
4 保護者の「参加意欲」を引き出す仕掛けを
 保護者が学校での各種行事に参加する中で、日頃から「共に生徒を育てている」意識を共有し、高い「参加意欲」を醸成することができれば、様々な教育活動が円滑に実施できる。
  一見、何か特別な活動が必要なようにも思われるが、まず着手すべき事は、日常的な活動の中に、保護者の「参加感」を高める仕掛けを採り入れていくことだ。例えば、ある高校では、生徒が毎日記入する学習予定表に「保護者のコメント欄」を設けている。生徒に学習成果を実感させるために「書かせる指導」を実践する学校は多いが、この学校では同様の手法で、保護者にも「参加感」を持たせているわけだ。
  また、保護者による進路講演会なども、「○○を考えているので協力してください」「○○に取り組みますのでご理解ください」というような学校本位のスタンスで進めてしまわないよう気を配りたい。むしろ学校が考えるべきは、保護者自身が自分の専門性を生かせ、参加することに充実感を感じられるような取り組みの在り方を模索することではないだろうか。


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