ベネッセ教育総合研究所
理数教育の展望
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身近なところから発生した興味が研究テーマに
―SSH指定校には、大学レベルの研究の実践例もありますね。

西澤 私は、個人的には高校までの授業で行う実験や研究は、大学レベルの研究テーマでなくてもいいと考えています。むしろ、身近なところから出てきた興味や素朴な疑問から、次々とテーマが派生してくる方が、生徒にとって身に付く授業となるように思います。
 福島県で「野口英世賞」という、中学生・高校生を対象に科学技術に関する課題研究に授与する賞があるのですが、私は11年間に渡ってこの大会審査員を務めています。審査において重視しているのは、実験の専門性や精緻さではなく、本人の興味を探究するために、どれだけ自分なりの工夫ができたかという点です。ある年の中学生の部の審査では、「竹の筒の中には何が入っているのか」という素朴な疑問から、竹の筒に含まれる気体を手作りの実験器具を使って測定し、炭酸ガスが15%入っているという竹の筒の中身の正体をつかんだ生徒がいました。この中学生は、家の裏などに竹林があり、日頃から竹に興味を持っていたのでしょう。科学の最先端として話題になっているテーマに触れるような実験も素晴らしいと思います。その一方で、私は研究の先輩として、この生徒のように、背伸びをせず、身近なところから着想した研究を高く評価したいのです。
 岩手県立大では、社会で求められる実践的な対応能力を身に付けるために、各学部で地域に根差した実学・実践の教育研究活動を推進し、地域をフィールドとした調査研究や市町村、医療機関、福祉施設、企業などでの実習を1年次から行っています。実はソフトウェア情報学部は、04年度の情報処理学会全国大会で、学生セッションの優秀者に与えられる「学生奨励賞」を8名が受賞しました。これは東京大の5名、京都大、慶応義塾大の4名を上回る最多受賞です。研究テーマは、IT化が遅れている県内の医療機関の実態を踏まえて、ファックスとITを組み合わせて患者の紹介状を管理するシステムの開発などです。まさに、地域に密着し、日常生活の身近なところから興味を深め、解決の方策を見いだすという点では、共通するものがあります。


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