ベネッセ教育総合研究所
理数教育の展望
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エデュケーションは、子どもの興味や能力を引き出すこと
―高校現場でのSSHのような取り組みに関しては、どう思われますか。

堀場 仕事と同じで、学問も自分が情熱を持ち、「面白い」と思って取り組めば、時間が経つのを忘れるほど熱中できるものです。ですから、高校も含めて早い段階で理系分野に特化した、個性ある教育を行うことで、学問そのものに興味を持たせ、刺激を与えることは良いことだと思います。
 「教育=エデュケーション」の語源である「エデュース」という言葉には、「引き出す」という意味がありますが、私はこれが教育において最も大切な要素であると考えています。授業を通じて生徒の興味を引き出すのが教師の役割です。

―SSHのような取り組みを成功させていくには、どのような授業を行っていけばいいのでしょうか。

堀場 私たちが普通に生活している場にも、「なぜ?」が詰まっています。例えば、肉を食べたとします。牛のロースは美味しい。美味しく食べればそれだけで終わってしまいますが、なぜ美味しいのかを考えてみる。そうすると、この肉は一体牛のどの部位なのか、他の部位の肉とどう違うのか、なぜこの部分には脂が乗っているのか、どんどん「なぜ?」が広がってきます。家庭でも学校でも、小さい頃から様々な機会を与え、その都度「なぜ?」と子どもに問い掛け、好奇心の芽を育ててやる。すると、何に対して好奇心のアンテナが向くのか、その子どもの指向性が自ずと見えてきます。その上で、親や教師は子ども自身が自分の指向性を発見し、進むべき道を見いだすことができるように、サポートしていけばいいと思います。
 そして、その「なぜ?」を具体的に解決できる瞬間を、日常生活や学習の場面の中にたくさん用意すれば子どもの興味は更に高まります。高校の授業も、そうした問題を解決する場になれば、生徒たちは「おもしろおかしく」学びに取り組むことができるのではないでしょうか。
 私から見ると、進学校ではまだまだ「入試のテクノロジー」を扱う場が多すぎるように思います。大学進学実績が保護者や地域からも期待されているため、そうした場としての機能も一面においては必要なのは事実でしょう。しかし、理科の実験など一番生徒が興味を持ちそうなところを、「手間がかかるし入試にあまり出ないので積極的に行わない」ということでは授業をする先生方にとっても、つまらないはずです。先生自身がワクワクしない授業に、生徒がワクワクするわけがありません。SSHでは、是非教師も生徒も「面白い」と感じる授業を実施してほしいですね。
 生徒の興味を引き出せたら、その興味をどこで生かせるか、導いていくのも教師の役目です。理系の場合は特に、どの学部・学科に行くかよりも、どの先生の下で学ぶかが大事です。生徒が興味を持った分野のエキスパートは誰か、どこの大学のどの学部・学科に行けば、その先生の指導を受けられるかという観点で、進路指導いただければと思います。
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技術者のみならず、現代のすべての働く人々に向けて、企業の中でのあるべき働き方を刺激的に発信し続けている堀場氏。「なぜ?」「どうして?」といった現状から新しい世界を創っていくきっかけを大切にすべきであることは、大人も子どもたちも同じなのだ。


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