ベネッセ教育総合研究所
入試選抜の変化を探る
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changes 2 多様な入試選抜の広がり
国立大AO入試の導入・拡大の動き
 大学入試において、各教科の問題で問われる学力が変わると同時に、選抜形態も多様化しつつある。00年度から国公立大でも導入されているAO(アドミッションズ・オフィス)入試だが、その実施大学数は年々増え続けている(図4)。07年度以降の入試に向けて、推薦やAO入試の導入・拡大に対する意識は益々高まっているようだ(図5)。
図4 AO入試実施大学・学部の推移(国公立大)
図表
図5 入学者選抜形態の変更について(国公立大)
図表
 AO入試の意義を北海道大高等教育機能開発総合センターの鈴木誠教授は次のように指摘する。
 「教科の試験だけでは見えない、意欲・関心、資質といった部分も重視しよう、というのがAO入試です。理系であれば、研究への意欲・適性はあるか、高校時代しっかり実験をやってきたか、といったその生徒が身に付けた学力の背景を知りたいと考えています。例えば、本学理学部化学科のAO入試では、面接の一環として簡単な実験に取り組ませたことがあります。試験管の持ち方一つでその生徒の学習の過程がうかがえます」
 総合的かつ多面的な評価を行うAO入試だが、基礎学力の養成が無視されるわけではない。
 「バランスの良い学力、と説明していますが、研究系大学である以上、本学ではAO入試でも一定の基礎学力を身に付けた学生を求めます。例えばSSH校の生徒だから、その体験に対し特別な配慮をAO入試で行うということはあり得ません。しかし、高等学校までに押さえるべき基礎知識を、実験・観察・分析・考察といった学習プロセスを通じて、きちんと身に付けることができた生徒は、高く評価したいですね」(東北大高等教育開発推進センター荒井克弘教授)
 大学入試において、「SSH校での体験」自体を直接的に評価する、といった動きは起こらないだろう。ただし、大学での学び、研究に対する態度、意欲・関心の醸成を意識したSSH校の取り組みは、まさしくAO入試などを通して大学が求める資質・能力と軸を一つにするもののように思われる。  こうした一連の入試を巡る変化の背景を北海道大の鈴木教授は次のように指摘する。
 「高校までは、いわゆる『1+1=2』タイプの、示された問題の正解にたどり着くことが中心の学びですが、大学は『x+y=5』。何がxでyなのか、無数に答えのある問題を考える学びと言えます。この高校と大学の学びのギャップを乗り越えられる生徒が、大学入学後も伸び続けられる学生です。少子化による入試圧力の緩和や法人化に伴い、大学間競争が増す中で、そうした資質を備えた学生を求めて、入試の在り方に対する問題意識を大学側がより強く持つようになったのは事実です。また、入学後教育の在り方と選抜はセットですから、選抜の変化はそのまま大学教育の改革と連携したものとなっています」
 入試では、高校履修段階で求められる範囲で、体系的な知識の習得ができているかがまず求められる。その知識が単なる「正解の暗記」によるものか、「本質を理解し、運用できる力」として身に付いたものかどうかをきちんと見極めたい―。こうした大学側の問題意識を背景にして、教科の入試問題における要求学力の変化や、AO入試などの多様な選抜の増加といった入試の変化が着実に進んでいるのではないだろうか。
 SSH校での実践を通して、課題研究や実験・考察などを取り入れた学びや思考の充実により、本質的な知識の理解・運用、課題解決力の育成が試みられている。このことは、変わりつつある大学入試の流れと矛盾するものではない。大局的に考えれば、SSH校での取り組みいかんを問わず、高校で取り組んだ学習活動を通じて、どのような力が身に付けられたかを、中・長期の視点で総括することが、高・大の指導する側により求められるようになってきているのではないだろうか。
3章まとめ
 SSHの各校は、高大連携の試みを取り入れていたが、ここでの試行錯誤が、高大連携の新たな方向性を示していることがうかがえる。
 これまでの連携は、出前授業、研究室訪問や授業の聴講といった、言わば「単発型」だった。学びへの動機づけという点では効果のある取り組みだったが、どうしても継続的な指導効果が得られにくい。しかし、SSHの多くの学校で実践され始めていたのは、高校におけるカリキュラムの中に位置付く連携だ。高校側が主導となり、カリキュラムを作り、その中の一場面として連携の場が設定される。
 大学側も、近年の入試変化からうかがえるように、座学中心の授業で得た知識・理解を測定するにとどまらず、むしろ、実験・観察・分析などを繰り返した結果身に付く考察力・分析力を問うようになってきている。
 高大連携を通じて、高校と大学それぞれの動きが相互に伝わることで、高校の教育及び大学の選抜・教育の在り方が互いに影響を受け合う、といった動きが今後より顕在化してくるのではないだろうか。


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