Closing Interview SELHiがもたらしたもの
影浦  攻
影浦 攻

Kageura Osamu

宮崎大学教育文化学部教授◎広島大学教育学部高校教育科外国語科卒。広島大学附属中・高校、鹿児島県立鶴丸高校などで教鞭を執ったのち、鹿児島県教育庁学校教育課指導主事、文部省初等中等教育局中学校課・高等学校課(当時)教科調査官を経て現職。著書に『新しい学力観に立つ英語科の評価』(明治図書出版)など。

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Closing Interview

SELHiがもたらしたもの
〜SELHiは日本の英語教育をどのように変えるのか〜

SELHi事業は、これまでにどのような成果を収めているのか。また、近い将来、日本の英語教育を、どのような方向に導く可能性を秘めているのか。中央教育審議会の外国語専門部会委員を務める宮崎大学の影浦攻教授が、4年間に渡るSELHiの取り組みを総括し、今後の課題を語る。

教師間の連携が強まり学校全体が活性化

―2002年度にスタートしたSELHi事業は、今年度で4年目を迎えました。これまでに、どのような成果が表れているのでしょうか。

  英語の学力向上はもちろん、その他にもさまざまな成果が表れています。まず、教師の意識の変化は顕著ですね。元々高校教師は、比較的個人で研究を進める傾向がありますが、SELHiの研究は、とても1人や2人では対応できない。そのため、英語科を中心に教師の連携が強まり、それが学校全体に活性化をもたらしている印象を受けます。また、研究の進展に伴い、ルーティン化していた授業を見つめ直す視点が教師に芽生え、「こんな授業も面白いのではないか」「カリキュラムを変えてみたらどうか」といったアイディアが自主的に生み出される空気が醸成されているようです。


―生徒には、どのような変化が生じているのでしょうか。

  授業が変われば、当然、生徒も変わります。SELHi校の多くは、“使える英語”に重点を置いた「聞く」「話す」「読む」「書く」の4技能の習得を目指し、授業そのものは英語で進行させています。そうした授業は、テキストを読んで訳して、また読んで…といった従来のスタイルに比べると、生徒にとっても格段に面白い。だから、生徒は目を生き生きとさせて授業に臨み、物怖じすることなく自分の考えを英語で表現します。SELHiの授業では、先生も生徒も授業を楽しんでいる光景が見られますね。
  また、SELHi校であることを前面に押し出すことで、保護者や地域の関心が高まった点も成果の一つと言えるでしょう。SELHiの指定をきっかけに、「県内で英語を学ぶならこの学校がいい」といった評判が広がり、志願者数が増えた高校もあったそうです。


―逆に、SELHi事業が抱える課題には、どのようなことがあるのでしょうか。

  指定校の研究成果を他の高校に広めることも事業の大きな目標の一つですが、それが現時点では十分に達成されていません。その要因には、従来の指定校には「英語科」「国際科」などが多かったことが挙げられます。
  そうした高校では、極めて先進的な研究を行ったり、あれもこれもと多くの内容を盛り込んだりする傾向があり、普通科では容易に応用できず、一般化が難しかったのではないでしょうか。今後は、そうした点にも留意して、指定校の選定や、研究内容の検討を進める考えです。

―研究成果を一般化する手段としては、現在、どのような手段があるのでしょうか。

  研究発表に加え、書籍、雑誌、またインターネットなどでの情報発信が主になります。ただし、研究発表は義務ではないため、実施しないところも少なくありません。
  自分の授業を見られて、いろいろと質問されることに拒否感を抱く教師は多いものです。その気持ちは分かるのですが、せっかくの研究成果ですから、「自分が英語教育を変える」というぐらいの気概を持って積極的に公開してほしいですね。そうした体験は教師としての自信につながりますし、生徒にとっては張り合いにもなります。また、保護者や地域の方への授業の公開は、自校の取り組みを理解してもらうためには非常に有用です。
  研究発表を行う際には、一般の高校がどのような点を応用できるかにも配慮したプログラムにしてほしいと思います。研究内容のすべてを発表することも有意義ですが、例えば、「この点は他の学校でも応用できるはずです」「この点で苦労しましたが、こういう工夫をしたら生徒の反応がありました」などと、一般校の教師が取り入れられるような情報を提供することで、研究成果をより多くの高校で役立てることができます。


―SELHiの研究成果を広めるために、一般校の教師が心掛けるべきことはありますか。

  それまでの経験を通して教師は自分の授業スタイルを構築していますから、授業法を変えることに抵抗感を抱いたり、また仕事量が増えることを嫌がったりする教師がいるのは当然です。しかし、「これまで通りでいいではないか」「そんな面倒くさいことはしたくない」などと従来の方法に固執していては、授業を改善する機会は、いつまで経っても訪れません。ベテランになるほど、そうした傾向が強いようにも思われます。
  SELHi型の“使える英語”を重視する授業法に対して、大学受験への対応が不安という声が聞かれることもあります。しかし、06年度からセンター試験にはリスニングが導入されましたし、各大学の個別学力試験の問題も大きく変化しつつあります。本来の意味で実践的な英語力を養うことが、現在の受験においても必要であると考えられます。むしろ、昔の受験のイメージを引きずっていては現状を見誤る危険があるでしょう。
  もちろん、すべての高校がSELHiと同等のレベルの授業を実践できるわけではありませんし、その必要もないと思います。しかし、自校に生かせる部分を見つけ出し、実践してみる努力は受験対策としても効果的ですし、ひいてはそれが大学受験そのものを変えていくことになるはずです。


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