未来をつくる大学の研究室 物性物理学

安藤恒也

安藤恒也 教授

あんどう・つねや
1945年生まれ。東京大大学院理学系研究科物理学博士課程修了。東京大理学部助手、ミュンヘン工科大学客員研究員、米国IBM研究所客員研究員、筑波大物理工学系助教授、東京大物性研究所助教授、同教授等を経て、現職。仁科記念賞、学士院賞、日本物理学会論文賞、江崎玲於奈賞など受賞歴多数。主な研究テーマは、カーボンナノチューブの電子物性、半導体量子構造の電子物性、量子ホール効果など。

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未来をつくる大学の研究室 09
最先端の研究を大学の先生が誌上講義!

東京工業大大学院理工学研究科物性物理学専攻
物性物理学

ナノテクノロジー*の代表的な素材として、将来、医療や環境分野への応用が期待されている新炭素系物質・カーボンナノチューブ。金属から半導体までさまざまに変化する性質や、金属電気が効率よく流れる仕組みについての理論がまとまったことで、実用化に向けて本格的に動き出した。

       10億分の1の大きさの物質による新技術

物性物理学って?

物質の性質や構造、構成原理を明らかにする

物性物理学とは、物質の性質を調べ、その背後にある基本法則、普遍性、特殊性を明らかにする学問だ。なぜダイヤモンドは硬いのか、なぜ鉄は冷たいのか、なぜある物質は電気を通し、別の物質は絶縁体となるのか……。量子力学や統計力学を理論的な基盤とし、半導体、磁性、超伝導、誘電体、結晶、表面、光物性などのさまざまな分野からアプローチする。ハイテク機器から医療、環境分野まで、人々の生活にかかわるあらゆる分野への応用が期待されている学問だ。


教授が語る

金属にも半導体にもなる
カーボンナノチューブの性質を理論的に予測

安藤恒也 教授

物性物理学との出合い
基本から順序立てて学べば物理学は難しくない

 高校生のころは、自分が物理学者になろうとは夢にも思っていませんでした。私にとって、物理は理系教科の中で最も難しい科目で、いくら勉強しても理解できませんでした。今思えば、高校の物理は与えられた公式を使って問題を解くだけで、なぜその公式が導き出されるのかという根本的なところまで議論しません。いろいろな現象が雑然と並べられているために、基本的な部分を理解できなかったのです。
 物理を本当に面白いなと感じ始めたのは、むしろ大学に入ってからです。大学では、量子力学や統計力学、電磁気学など細かい分野ごとに勉強していきます。一見難しいのですが、それぞれの分野で、出発点のところからどのように理解していけばよいのかという筋道がはっきりしているため、私にはかえって理解しやすかったのです。
 私が物理学を本格的に学び始めたころ、朝永振一郎(※1)教授が素粒子の研究でノーベル物理学賞を受賞しました。そこで、私も素粒子を専門に研究しようと思ったのですが、当時、素粒子を専攻しても、卒業後の就職が難しいとわかっていました。物性物理学であれば、化学からエレクトロニクスの分野まで可能性が広がっており、ある程度将来の「つぶし」が利くという考えがありました。
 物理学の研究を進める上で必要なのが、研究手法の選択です。物理の研究は「理論」と「実験」に大別され、どちらに進むのかによって研究のプロセスが大きく変わります。物理学の世界では、理論的な計算を基に物質の法則や性質を予測することを「理論」、それを実験などで観測して証明することを「実験」といい、研究者は自分自身の興味や特性に応じてどちらかの研究手法を選択します。私は、学生時代から手を使って実験することが苦手な反面、詰め将棋のように頭で考えることが好きだったので、迷わず「理論」を選びました。ですから、今でももっぱら紙と鉛筆を使って計算しながら、さまざまな現象を予測するのが、私の研究なのです。

用語解説
※1 朝永振一郎  1965年にノーベル物理学賞を受賞。素粒子の理論と相対性理論との関係を明確にした「くりこみ理論」で、光と物質の相互作用を解明した。
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