教える現場 育てる言葉

文学座附属演劇研究所

文学座附属演劇研究所

 

文学座附属演劇研究所の母体である文学座は、1937年、3人の文学者、岸田国士、久保田万太郎、岩田豊雄によって設立された。文学者が設立し、文学作品を演目の中心に据えてきたことが、文学座という座名の由来だ。森本薫、三島由紀夫、有吉佐和子など国内の優れた文学者の作品を上演する一方、カミュやサルトルなどの作品にいち早く取り組むなど、前衛性の高い演目にも積極的に挑戦してきた伝統を持つ。研究所は文学座が運営する俳優養成機関。現在のように毎年研究生の募集を行う学校形式になったのは、1960年からである。


文学座代表幹事・文学座附属演劇研究所所長

戌井市郎(左)

いぬい・いちろう 演出家。文学座創立メンバー。研究所所長として若手育成に尽力。


文学座附属演劇研究所主事

鵜澤秀行(右)

うざわ・ひでゆき 俳優。研究所7期卒業生。現在、後進の指導に当たっている。

VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
  PAGE 1/4  次ページ

教える現場/育てる言葉・Number6


文学座附属演劇研究所

人に興味を持ち、人の話を聞くことが俳優としての第一歩

いい演技に求められる他人への関心

創立以来、70年以上の長きにわたって日本の演劇界をリードしてきた文学座。
若手俳優の育成に力を注いできたこの劇団は、
創立当時の理念を確実に継承しつつ、常に現代人の生活感情に根ざした芝居を
上演し続けてきた。伝統を守りながらもいつの時代にも実力派として認められる俳優をどのように育ててきたのか、東京・信濃町の文学座附属演劇研究所で話を聞いた。

俳優養成は セリフ回しから始まる

 文学座は、日本の近代演劇史を象徴する存在であると同時に、現在でもわが国演劇界の中核に位置する劇団だ。加藤武、江守徹といった有名俳優を筆頭に多くの演劇人が輩出し、付属する演劇人の養成機関である文学座附属演劇研究所(以下、研究所)では、今もプロの俳優を目指す多くの若者が学ぶ。創立に際して起草された文章の中に、次のような言葉がある。「内に於いては、名実ともに現代俳優たり得る人材の出現に力を尽くしたいのであります」(1938年試演プログラムの『文学座創立について』より)。
 この言葉の通り、文学座は設立の翌年に研究所を開設した。現在の研究所は本科(1年間)と研修科(2年間)に分かれており、本科の受験資格は18歳以上。例年、300名を超える受験者の中から60名が合格する。合格者の平均年齢は20代前半。高校を卒業してすぐに入所する者ばかりでなく、大学生、大学中退者、社会人経験者、他劇団の経験者などが集まる。研修科に進めるのは、このうちわずか15名程度。
 研修科を卒業すると、その中でさらに選抜を通った者だけが座の見習いである準座員になれる。その後、正式な座員となるにはさらに2年が必要だ。採用されるかどうかは、実力はもちろんのことながら、その時、座が必要とする個性を持っているか否かにも大きく左右される。座員になれるのはほんの一握りというわけだ。しかし、だからといって研究所を途中で去っていく者はほとんどおらず、また卒業後も演劇から遠ざかる者は少ない。研究生たちは、授業の合間を縫いながら、授業料を稼ぐため日々アルバイトに精を出している。

  PAGE 1/4  次ページ
目次へもどる
高等学校向けトップへ