未来をつくる大学の研究室 蚊の生態や感染のしくみを解明し感染症の予防・治療につなげる
VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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研究の内容
身近であっても科学的に証明されていない蚊の生態

 皆さんは蚊に刺されたことがあると思います。蚊に血を吸われると皮膚がかゆくなりますが、実は、単に不快な思いをさせられるだけでなく、蚊は病原体を媒介する危険な生き物でもあるのです。
 蚊は、人間だけでなく動物の血も吸います。病原体を持つ動物の血を吸うと、その病原体も体内に取り込んでしまい、その蚊が人間の血を吸う時に、体液と一緒にその病原体を送り込んでしまうのです。蚊が媒介する病気には、マラリアや日本脳炎、フィラリア病(※1)などがあります。衛生環境が整っている今の日本では感染者はあまり出ませんが、いずれも死に至ることもある恐ろしい病気です。
 では、蚊はどうやって動物を見つけ、どのようにして血を吸うのでしょうか。それが分かれば、感染の予防や病気の根絶につながる可能性があります。これだけ身近な生物なのだから、多くの研究報告が出されていると思うかもしれません。しかし、蚊の生態は全くといっていいほど分かっていないのです。
 例えば、「蚊は動物や人間が発する体温や二酸化炭素を感知して寄っていく」といわれていますが、それは科学的に証明されているわけではありません。ドライアイスで実験をしてみると、確かに、蚊は発生した二酸化炭素に近寄っていきます。しかし、だからといって、人間が発する二酸化炭素にも寄るという論理は成立しません。人間が二酸化炭素を排出しない状態にして実験したときに蚊が近寄らないことが証明されて初めて、「人間が排出する二酸化炭素に蚊が寄る」と立証できるのです。
 「汗をかくと寄ってくる」「O型は吸われやすい」などの俗説は数あれど、何一つ証明されていない蚊の生態はいかなるものか。私の研究室では、それを解明しようとしています。

用語解説
※1 マラリアや日本脳炎、
フィラリア病
いずれも蚊を媒介にした感染症。マラリアは、感染すると40度前後の高熱や頭痛などの症状を起こし、死に至ることもある病気。日本脳炎はウイルスによる脳炎のこと。フィラリアは寄生虫の名前で、日本では蚊が媒介するイヌのフィラリア病がよく知られる。

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