座談会 「高大接続テスト」は教育改革の突破口
佐々木隆生

▲北海道大
公共政策大学院教授

佐々木隆生

Sasaki Takao

寺島  求

▲東京都立西高校

寺島 求

Terashima motomu

総務主任、数学科担当

鈴木達哉

▲三重県立津高校

鈴木達哉

Suzuki Tatsuya

2学年担任(進路指導担当)、国語科担当

植松信行

▲長崎県立長崎東高校

植松信行

Uematsu Nobuyuki

進路指導主事、物理科担当

吉田祐一

▲熊本県立阿蘇高校

吉田祐一

Yoshida Yuichi

進路指導主事、英語科担当

VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
  PAGE 2/4 前ページ 次ページ

学習意欲を高めるために年数回実施も視野に

─「大学全入」や推薦・AO入試枠の拡大を背景に、一部の大学では学生の学力の低下が問題になっています。そんな中、「高大接続テスト」に、高校生の学力、学習意欲を高める機能が期待されています。この点について、高校現場のお考えをお聞かせください。
植松 推薦入試やAO入試など、学力試験を課さない入試を受験する生徒は、基礎学力が不足しがちです。早期に合格が決まってしまうので、その後の学習のモチベーションも下がってしまう。自律的な受験勉強を経験していないので、受け身の学習態度から脱却できず、大学で求められる主体的な学びにつながらないのではという心配もあります。こういった生徒にとって、「高大接続テスト」は学習の動機付けとして有用でしょう。
 ただ、テストの実施時期は重要な問題です。3年生の夏頃だと、7月ぐらいまで部活動をしている生徒は十分な勉強時間を確保するのが難しい。また、公務員試験や専門学校を受験する生徒は、各種試験の実施が8月末から9月頃になりますので、複数の試験の対策が重なってしまう。3年秋以降のできるだけ遅い時期がよいのではないでしょうか。いずれにしても新テストの導入は、学校行事に大幅な変更を強いるので、慎重に検討してほしいところです。
吉田 本校のように、進学から就職まで、生徒の希望進路が多様な学校では、生徒の学力保証のために学習到達度を測る校内検定試験を実施しているところがあります。検定試験は、生徒にとっては目標に、教師にとっては指導指針になり、うまく機能しているケースが多いようで、本校でも導入を検討中です。「高大接続テスト」も、この校内検定試験のように、生徒・教師双方に「このレベルまで」という到達度を示す試験になるとよいのではないでしょうか。
 ただし、センター試験のように受験機会が年1回だと、失敗するとまた翌年まで待たなければなりません。1年に数回受験できる試験であれば、生徒の意欲も維持しやすいのではないでしょうか。
佐々木 「高大接続テスト」を導入した場合、「高校3年生のある段階に1度実施」と想定している方が多いようですが、高大接続の協議・研究ではそうとは限らないと考えています。実施時期や回数はテストの性格に関係します。「高大接続テスト」は、生徒の学習到達度の確認を目的とした目標準拠型の試験であり、研究会でも、「高校の学習指導の目安に使えるようなものにしたい」という声が上がっています。今、先生方がおっしゃったように年数回受けられるものがよいという意見も出ています。
 例えば、中学校での学習を含めた高校1年目の学習成果については、1年生の終わりから2年生の初めに到達度を確認する試験を実施し、2年次、3年次でも順次、学習到達度を確認する試験を行うというのも1つの案でしょう。
─実施科目について、高校の先生方のご意見をお聞かせください。
寺島 高校生や大学生の基礎学力低下の原因の1つに、大学入試での入試科目数の削減と、高校教育における大幅な科目選択制があると私は考えています。ですから、「高大接続テスト」を動機付けとして生徒に学習させるのなら、5教科7科目で実施した方がよいと思っています。ただ、これは普通科に限った話であり、専門高校を含めた教育課程の違いを考えると、国語・数学・英語に絞らざるを得ないという気もしますが、佐々木先生はどうお考えでしょうか。
 私自身は、実施科目は、高校で指導している教科・科目に限定しなくてもよいのではと考えています。例えば、教養に関する科目や、現代社会の諸問題について考えさせる科目などを設定し、高校生として必要な知識、教養を問う試験を実施する。教科の枠を超えた横断的な問題を出題してもよいのではないでしょうか。
佐々木 科目数の多い試験と少ない試験と両方を用意するなど、複数のタイプのテストを作ることも考えられるかもしれませんね。また、教科・科目に縛られない教養的、総合的な問題として出すというのも、実現は容易なことではないにしても、確かに一案ですね。ただ、そうした時も、高校での学習の基礎基本につながるような国語系の問題、理数系の問題を必ず入れたいところです。いずれにしても今は、いろいろな可能性が考えられると思います。
─では、どのような生徒を対象にした試験となるべきでしょうか。
吉田 推薦・AO入試を受ける生徒に加え、校内検定試験的な機能を持つテストであれ、中位層・下位層の生徒の学習意欲を高めるために大きな役割を果たすと思います。ただ私は、東京大などの難関大を目指す生徒も受験するようなテストにしてもらいたい。現在、大学の学問は学際的な色彩が強く、幅広い領域を研究する視点が必要です。上位層の生徒でも、高校で学んだ基礎学力が横断的に身に付いているかの確認が求められます。
佐々木 私は、「高大接続テスト」が1種類の試験である必要はないと思います。例えば、アメリカではSATやACT(注1)などの共通試験を大学入試に利用するのが一般的です。大学はほかの学力試験を課さずにこれらを選抜に利用しています。SATにはいくつか種類があります。「高大接続テスト」にも難易度別に数種類あってもよいのかもしれません。
寺島 一方で、上位層の大学の選抜には大学入試センター試験が十分機能しているのも事実。現状の大学入試の制度を維持しながら、「高大接続テスト」をどのように機能させていくか、高校現場はより明確な指針を必要とするでしょう。
吉田 選抜にセンター試験を採用する大学、「高大接続テスト」を採用する大学、その両方を併用させる大学と、分かれていくことも考えられますね。
佐々木 その通りです。ただ、その時に問題になるのは、コストです。仮に、高大接続テストを大学入試センター試験のような全国一斉テストとして実施すると、コストも労力もかかり非常に大変です。
 まだ調査段階ですが、医学系の共用試験は参考になるかもしれません。医学部・歯学部の学生は、臨床実習の前にCBTによる学力試験を受験します。CBTは、コンピュータで出題・解答する試験で、問題は各大学から募集、精査され、プールしていきます。センター試験のように全国一斉に同じ試験問題を解くのではなく、膨大な問題の中から、コンピューターが受験生一人ひとりに違う問題を出題するのです。この方法だと、初期投資はかかりますが、実際の運用段階では人手もコストもかなり抑えられるでしょう。全国一斉ではないので、高校の情報処理室などでも実施できます。

*注1 SAT(Scholastic Assessment Testの略)とACT(The American College Testing Programの略)は、アメリカの多くの大学入試で使用されている大学共通テストのこと


  PAGE 2/4 前ページ 次ページ
目次へもどる
高等学校向けトップへ