未来をつくる大学の研究室 クロマグロの特性を解明し配合飼料の開発から安定供給を目指す
VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
  PAGE 2/5 前ページ  次ページ

研究分野の概要
配合飼料の開発でクロマグロの安定供給、資源保護を目指す

 2002年、本研究所は32年の歳月をかけて、それまで不可能といわれていたクロマグロ(※1)の完全養殖に世界で初めて成功しました。完全養殖とは、人工ふ化から育てた成魚が産卵し、更にその卵を人工ふ化させて成魚にまで育て、その成魚がまた卵を産むという一つのサイクルを完成させることです。
 水産養殖の研究分野は、採卵や種苗(しゅびょう)量産技術、養成技術などの確立、汚染・環境負荷の構造の解明、鮮度保持や加工法の改善、安全性の確認、流通など多岐に渡ります。その中で、私は「魚の飼料」について研究しています。飼料開発に当たっては、魚類の味覚や臭覚、消化吸収の機能、各栄養素の要求量と代謝について明らかにする必要があります。また、養殖産業の発展を考えると、価格を考慮することも重要な課題です。
 これまで、魚の養殖には生き餌が多く用いられてきました。しかし、生き餌に含まれる栄養素が海水に溶け出し、赤潮(※2)を引き起こすことが問題視されていました。そこで、栄養素の流出が少なく、栄養バランスにも優れた人工配合飼料が注目されるようになったのです。配合飼料には、イワシ類、アジ類、サバ類などを乾燥させて粉末にした魚粉が多く用いられます。しかし、これでは魚に魚を与えることになるため、結果的に魚資源の減少につながります。魚粉に代わる安価な動物・植物・微生物タンパク質源を利用した配合飼料の開発が必要とされたのです。
 日本は、世界で漁獲されるクロマグロの8割を消費しています。マグロ類の漁獲規制(※2)が世界規模で行われている今、クロマグロの養殖技術を発達させ、養殖産業の発展につなげることは、日本の責任ともいえます。また、これは天然のクロマグロの保護にもつながるのです。
 養殖技術の向上には、配合飼料の開発が一つの鍵になります。また、養殖経費の半分を飼料代が占めるため、配合飼料の低廉化が実現すれば、最終的に高級クロマグロを安く賞味出来るようになるのです。

用語解説
※1 クロマグロ 日本沿岸で捕れるマグロの中で最大種。成魚の中には体長3メートル、体重400キログラムに達するものもいる。稚魚は皮膚が弱く、触れると死んでしまい、成魚になっても光や音に過敏で、パニックを起こして生けすの網に激突しやすいため、完全養殖は不可能とされていた。
※2 赤潮 植物プランクトンの異常増殖により、海水が赤褐色や茶褐色に染まる現象。海水中の酸素が大幅に減少するため、その海域に生息する魚貝類などが死滅し、漁業に甚大な被害を及ぼす。
※3 マグロ類の漁獲規制 09年11月、大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)において、日本は10年の東大西洋と地中海のクロマグロ漁獲枠を09年比約4割減とすることで各国政府と合意した。日本の国別割当量も、09年の1871トンから1148トンになる。同海域産のクロマグロの半数は日本が消費しており、水産業や食品業への影響は大きいといわれている。

  PAGE 2/5 前ページ 次ページ
目次へもどる
高等学校向けトップへ