未来をつくる大学の研究室 クロマグロの特性を解明し配合飼料の開発から安定供給を目指す
VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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研究内容
失敗の積み重ねで生まれた最適な配合飼料

 本研究所がクロマグロの完全養殖に成功した02年に、私は配合飼料の開発に着手し、09年には、0.25グラムのクロマグロの稚魚が1キログラムになるまで問題なく成長する配合飼料の開発に成功しました。
 それまで、クロマグロ用配合飼料の開発は、日本、オーストラリア、ヨーロッパの各大学・研究機関で挫折を繰り返しながら進められていました。クロマグロの養殖で特に問題だったのは、他の養殖魚の配合飼料を基にした飼料では、クロマグロは全く食べないか、食べてもわずかな量で成長しないということでした。クロマグロだけが、他の魚と必要とする栄養分が大きく違うとは考えられません。しかし、長くこの壁を崩すことが出来なかったのです。
 そこでまず、配合飼料を食べさせるために、クロマグロが好む味を調べました。その結果、人間も「うまい」と感じるイノシン酸やグルタミン酸を好むことが分かりました。そこで、これらを添加した配合飼料を与えたのですが、稚魚は食べるものの、成長面ではそれほど改善されませんでした。
 続いて、クロマグロの消化吸収能力を調べたところ、とりわけ魚粉に対する消化力が低いことが分かりました。クロマグロの成長はブリやマダイの5〜10倍で、この成長の速さを支えるには大量の餌が必要です。しかし、消化しにくい飼料では吸収に時間がかかり、成長の速度を維持するだけの量を食べられません。配合飼料によるクロマグロの飼育の難しさは、この点にありました。
 魚粉は製造過程で高温処理されるので、タンパク質が大きく熱変性します。おそらく、この変性がクロマグロのタンパク質消化酵素の働きを妨げていたのでしょう。
 魚粉の消化に問題があると分かったので、私はそれに代わるタンパク質源を探しました。そしてついに、クロマグロは微生物起源のタンパク質分解酵素で処理した「酵素処理魚粉」に対する消化力が優れていることが分かり、09年にクロマグロ用配合飼料の完成にこぎつけたのです。
 クロマグロの産卵期は真夏のため、試験に用いる稚魚の生産は晩夏から秋に限られます。年に2、3回しか研究出来ず、完成までに7年の歳月を要しました。それだけに、配合飼料にクロマグロの稚魚が群がっている光景を見た時は感無量でした。

配合飼料
写真 生き餌の代替となる、当研究室で開発した配合飼料。栄養バランスはもちろん、大量に餌を摂取するクロマグロの消化器系に配慮してつくられている
近畿大浦神実験場の生けす
写真 和歌山県にある近畿大浦神実験場の生けす。時期によって異なるが、主にクロマグロやトラフグ、マダイなどが養殖されている

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