「データで考える子どもの世界」
中学校選択に関する調査
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第7章 中学校の選択行動や中学受験はどう変化したか

      −88年調査と07年調査の比較から考える−

第1節 中学校進学をめぐる環境の変化


1.1988年の教育動向と東京における中学校選択の状況
 近年、中学受験をする小学生が増えたというニュースを、よく耳にする。東京や大阪などの大都市を中心に、中学受験率が高まっているという。また、1998年に学校教育法が改正されて中高一貫教育を行う学校が設置できるようになった。これにより、公立(設置者は都道府県が多い)でも、私立と同様に中高一貫教育を行う学校が現れている。まだ学校数は少ないが、入試倍率が高い学校が多く、小学校卒業後の選択肢の一つとして認識されはじめているようだ。さらに、一般の公立中学校の進学においても、学校選択制が広がっている。文部科学省が2006年に実施した調査(「小・中学校における学校選択制等の実施状況について」2008年発表)によると、2校以上の中学校を置く自治体の13.9%が中学校の選択制を導入している。この制度は、人口の多い都市部を中心に行われているので、実際に選択の機会がある子ども・保護者の割合は、もっと多いはずだ。

  このように、中学校選択をめぐる状況は大きく変わり、ここ10年ほどで選択機会は増えたと考えられる。それでは、それにともなって、子どもや保護者の意識・行動も変わったのだろうか。本章では、1988年と2007年に東京23区で行った調査をもとにして、中学校選択にかかわる意識・行動の変化を検討する。

 [1] 1988年当時の教育動向

  調査結果を確認する前に、まずは1988年当時の教育動向や中学校選択の状況を概観しておこう。1988年といえば、バブル好景気の絶頂期であった。東京圏住宅地の地価の前年上昇率が68.6%と過去最高を記録し(国土庁〔当時〕調べ)、世界最長の青函トンネルや瀬戸大橋が開通した年である。個人消費と設備投資を中心にした内需に支えられ、景気拡大が続いていた。このように経済は好調であったが、教育においては詰め込み教育のさまざまな弊害が指摘されていた。

(1)「学校の荒れ」の社会問題化
 1980年代に入ってすぐに、学校の荒れが社会問題になった。1980年に文部省(当時)は、「児童生徒の非行の防止について」と題する通達を出し、校内暴力の増加や非行の低年齢化を是正するために「全教師が一体となって生徒指導に取り組む」よう要請した。さらに、翌年には、「生徒の校内暴力等の非行の防止について」のなかで具体的な対応策を示した。ここでは、「生徒が授業から離脱することのないよう出欠を厳重にとることや授業時間に当たっていない教師が交替で校内を巡視したり、昼休みや下校時等に生徒を観察したりして指導する」こと、「パトロールを行い、生徒の登下校の態度を観察して指導する」ことが必要だとされている。教員による管理強化が求められるほどに、学校の荒れがひどかったともいえる。

 その後、今度は「いじめ」が問題になる。1985年に文部省は「児童生徒のいじめの問題に関する指導の充実について」と題する通達において「近年、児童生徒の問題行動の中でもいじめの問題が極めて憂慮される事態」になっているとの認識を示し、「いじめの問題の解決のためのアピール」を発表した。ところが、1986年に東京都中野区の男子中学生がいじめを苦に自殺する事件が起こる。それ以降にも立て続けに起きたいじめ事件は、学校がこの問題に十分に対応できていない状況を露呈した。こうした学校の荒れは、公立学校に対する不信感という形で子どもや保護者の意識に影響を与えたと考えられる。
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