大学生の学習・生活実態調査報告書
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第2節 大学での学習成果

大学での学習成果

 大学生は授業以外の諸活動も含めて、大学でどのような力を身につけることができているのか。またそうした力は、どのような活動・教育によって養われているのか。こうした点から多角的に分析した結果、基本的なコンピュータ・リテラシーや専門分野の基礎知識、持続的学習態度の修得で高い成果を上げていることや、「ことば」を介した授業方法が学生に対して高い学習成果をもたらしていることが確認された。

Q
あなたのこれまでの大学の成績について教えてください。なお5段階評価の「秀、優」の場合は「優(A)」と答えてください。
 先般、大学界では「学士力」(大学卒業までに学生が最低限身につけるべき能力)なる概念が中央教育審議会(中教審)より提起され(2007年9月)、さまざまな波紋を呼んでいる。いずれにせよ、大学生の学習成果(ラーニング・アウトカム)を、専門知識のみならずより汎用的な態度・技能(Generic Skills)も含めて包括的にとらえていくことが焦眉の課題となっている。本調査では、そうした学習成果をとらえるため、類似するさまざまな指標より項目を吟味・検討し、最終的に28の項目を設定した。なお、選択肢は「かなり身についた」から「全く身についていない」までの4段階である。図3-2-1は、「かなり身についた」と「ある程度身についた」の%を合わせて、数値の高い項目順に並べ替えたものである。以下、合計%を一定の範囲(高群70%以上、中群50〜69%〔うち60〜69%を中-高群、50〜59%を中-低群〕、低群49%以下〔うち40〜49%を低-高群、39%以下を低-低群〕)にもとづいて、現在の大学教育(正課外も含む)がどのような成果を学生にもたらしているのかについて検討を行う。
図3−2−1 大学での学習成果(全体)
 高群(合計70%以上)に該当する項目は、「コンピュータを使って文書・発表資料を作成し表現する」から「多様な情報から適切な情報を取捨選択する」までの5項目であった。「コンピュータを使って文書・発表資料を作成し表現する」(74.8%、「かなり身についた」+「ある程度身についた」の%、以下同)や「多様な情報から適切な情報を取捨選択する」(70.1%)から、基本的なコンピュータ・リテラシーは十分に身についていることがいえ、また「専門分野の基礎的な知識・技術を身につける」(71.4%)ことや、「進んで新しい知識・能力を身につけようとする」(70.3%)ことにも高い成果を上げているといえる。

 中-高群(合計60〜69%)に該当する項目は、「文献や資料にある情報を正しく理解する」から「社会や文化の多様性を理解し、尊重する」までの12項目と、最も多くの項目が分布している群である。専門分野の基礎知識ほどではないが、「幅広い教養・一般常識を身につける」(69.2%)も7割に近い値を示しており、両結果より、総じて大学における知識獲得の面においては一定水準に達していることがうかがえる。また、「ものごとを批判的・多面的に考える」(68.0%)、「自分の知識や考えを文章で論理的に書く」(64.6%)、「現状を分析し、問題点や課題を発見する」(64.3%)、「筋道を立てて論理的に問題を解決する」(62.8%)といった結果より、批判的思考や論理的思考といった点についてはある程度成果を上げているといえるが、もう一歩といったところだろうか。そして中-低群(合計50〜59%)と合わせて、「自分の感情を上手にコントロールする」(65.2%)、「自分の適性や能力を把握する」(63.5%)、「自分で目標を設定し、計画的に行動する」(59.4%)、「自分に自信や肯定感をもつ」(53.4%)といった結果より、自尊感情やタイムマネジメントを含むセルフコントロールの点でやや不十分といえよう。特に、自己効力感(自分にもできるという感覚)などはさまざまな活動遂行に影響を与えることから、大学教育においても知識や態度、技能の形成の裏に隠れた最も重要な変数の1つであると考えられることからも課題といえよう。

 低-高群(合計40〜49%)に該当する項目は、「既存の枠にとらわれず、新しい発想やアイデアを出す」から「自分の知識や考えを図や数字を用いて表現する」までの5項目であった。「問題を解決するために、数式や図・グラフを利用する」(47.3%)、「仮説の検証や情報収集のために、実験や調査を適切に計画・実施する」(46.2%)、「自分の知識や考えを図や数字を用いて表現する」(45.5%)といった結果より、数的処理に関する計画力や表現力に関しては、十分高い成果が得られているとはいえない状況である。低-低群(合計39%以下)に該当する項目は、「外国語で読み、書く」から「社会活動(ボランティア、NPO活動などを含む)に積極的に参加する」までの4項目であった。「外国語で読み、書く」(39.2%)や「外国語で聞き、話す」(34.7%)といった結果より、外国語に関する能力獲得は十分でないことが示された。また、「社会活動(ボランティア、NPO活動などを含む)に積極的に参加する」(21.0%)の低さも顕著である。最後に、「自ら先頭に立って行動し、グループをまとめる」(37.0%)といったリーダーシップの低さも、先の社会活動参加の低さなどとも関連している可能性がある。一般的に、日本の学生はリーダーシップに乏しいといわれているが、そうした結果を今回の調査でもうかがうことができる。逆に、「人と協力しながらものごとを進める」(67.1%)といった協調性に関する値は高く、現在の大学生の対人関係のあり方が表れているとみることもできるだろう。

 次に、参考までにこうした学習成果は学年によってどのように変化しているのかについて検討してみたところ、28項目中23項目で学年が上がるごとに数値も上がっており、学習・教育経験を積むにつれ、能力も獲得していくというプロセスが垣間みえた(詳細は巻末の基礎集計表を参照)。若干数値が逆転する学年があったのは「幅広い教養・一般常識を身につける」(1年生65.8%<3年生69.5%<2年生70.4%<4年生71.1%、「かなり身についた」+「ある程度身についた」の%、以下同)と「専門分野の基礎的な知識・技術を身につける」(1年生64.7%<2年生71.6%<4年生73.8%<3年生75.5%)といった知識にかかわる2項目と、「コンピュータを使ってデータの作成・整理・分析をする」(1年生64.9%<3年生66.7%<2年生67.0%<4年生72.9%)であったが、差は微々たるものとなっている。一方、学年を追うごとに下がる傾向を示していたのが、「外国語で読み、書く」(4年生34.3%<3年生35.9%<2年生40.5%<1年生46.4%)と「外国語で聞き、話す」(4年生30.2%<3年生31.2%<2年生36.5%<1年生41.1%)といった外国語にかかわる2項目であった。特に外国語に関しては、初年次段階では必修化されていたり、高校での学習の蓄積があったりするが、高年次になると特別な事情を除けば学習の機会は減る一方であり、そういったことがこの現象を招いているように思われる。

 以上では、全体と学年別の回答結果をもとに分析・考察を行ってきたが、依拠する学問領域によって教育カリキュラムの内容や正課外活動を含む学生生活の送り方まで異なることが想定され、それによって得られる学習成果にも濃淡が生じることが十分考えられる。そこで、学部系統別における学習成果(ラーニング・アウトカム)の差異について検討を行い、それぞれの強みや課題などの析出を行うこととする(表3-2-1)。

 「人文科学」系学部では、全体平均より10ポイント以上高かった項目は4つ、5ポイント以上は2つ、そして10ポイント以上低かった項目は2つであった。特に、「外国語で読み、書く」と「外国語で聞き、話す」が高く、関連して「社会や文化の多様性を理解し、尊重する」や「国際的な視野を身につける」においても高い傾向がみられた。

 「社会科学」系学部では、全体平均より5ポイント以上高い項目はみられず、5ポイント以上低かった項目が4つであった。その内容は「自分の知識や考えを図や数字を用いて表現する」「コンピュータを使ってデータの作成・整理・分析をする」「問題を解決するために、数式や図・グラフを利用する」「仮説の検証や情報収集のために、実験や調査を適切に計画・実施する」と、いずれも数的処理にかかわる項目であった。

 「理工」系学部では、全体平均より10ポイント以上高かった項目は2つ、5ポイント以上は2つ、そして5ポイント以上低かった項目は4つ、10ポイント以上低かった項目は2つであった。社会科学で低かった4項目について、全く逆の高い値を示しており、数的処理に効果を上げている。また、「人文科学」において10ポイント以上高かった4つの項目について低い値を示しており、外国語、社会・文化の多様性や国際的な視野に関する能力獲得が弱いことが示された。

 「農水産」系学部では、全体平均より5ポイント以上高かった項目は3つ、そして5ポイント以上低かった項目が7つ、10ポイント以上低かった項目が1つであった。高かった項目の傾向をみると、「理工」系学部と同様に、数的処理で効果を上げているが、批判的・論理的思考、社会規範や社会参画において低い値を示した。

 「保健その他」の学部では、全体平均より10ポイント以上高かった項目は1つ、5ポイント以上は7つ、そして5ポイント以上低かった項目は4つ、10ポイント以上低かった項目は1つであった。特に「専門分野の基礎的な知識・技術を身につける」において高い値を示していた。他にも「理工」「農水産」系学部と同様、数的処理に関する項目で高い値を示すとともに、「コンピュータを使ってデータの作成・整理・分析をする」においても高い値を示した。一方、外国語や教養・一般常識、国際的視野については低い値を示した。

 最後に「教育」系学部では、全体平均より10ポイント以上高かった項目は9つ、5ポイント以上は6つ、そして5ポイント以上低かった項目はなく、全28項目中15項目と半数以上で5ポイント以上高い項目がみられた。高かった内容も、「人と協力しながらものごとを進める」「自ら先頭に立って行動し、グループをまとめる」「異なる意見や立場をふまえて、考えをまとめる」といった協調性やリーダーシップ、「自分で目標を設定し、計画的に行動する」「自分の感情を上手にコントロールする」「自分に自信や肯定感をもつ」といったタイムマネジメントやセルフコントロール、「現状を分析し、問題点や課題を発見する」「既存の枠にとらわれず、新しい発想やアイデアを出す」といった問題解決や創造的思考、「社会活動(ボランティア、NPO活動などを含む)に積極的に参加する」といったように広範な領域で高い値を示していた。
表3−2−1 大学での学習成果(全体・学部系統別)
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