大学生の学習・生活実態調査報告書
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序章

大学生調査の実施とその活用に向けて   同志社大学教授 山田礼子

 現在、わが国の大学進学率は50%を超えている。進学率の上昇、いいかえれば、高等教育のユニバーサル化の進行にともなって大学入学者の多様化も進行しつつある。そうした現状をふまえて、中央教育審議会が2008年12月に公表した答申* 1において言及されているように、今後は、各大学が自らの教育理念と学生の成長を実現する学習の場として学士課程を充実させることが強く求められることは必至であろう。しかし、教員の主観的な経験ではなく、客観的なデータにもとづいて学生の成長をどう測定するのか、あるいは学生の成長の成果と学士課程教育の関係性についての研究の蓄積は、わが国では多くない。学生の成長に関する理論構築と測定法である継続的学生調査の開発が遅れていることが要因のひとつである。

 日本の大学は、こうした大学のユニバーサル化の進行に対応するために、あるいは近年の大学改革の流れのなかで、初年次教育の導入や、カリキュラム改革、FD活動*2等には取り組んできたが、大学での学生への教育効果を測定する教育評価の手法の開発にはほとんど手がつけられていないのが現状である。現在、教育GP*3による教育プログラムの評価や大学評価が開始されるなかで、教育の効果・成果が認められるようなデータの提供がますます求められるようになってきたが、学生に関するデータが日本の大学においてはなかなか入手しにくく、かつ大学間での比較が可能なデータの蓄積が難しい。政策的にも研究のみならず教育を重視していく方向性にある転換期の日本の高等教育機関において、学生の教育効果・成果に関する評価を精緻に構築していくことは、次世代につながる人材の育成といった点でも緊急の課題であるといえるだろう。

 一方、米国では、学生調査が継続的に実施され、学生調査結果をベースにした高等教育の教育効果の測定研究、学生研究の蓄積が行われ、学生の成長に関する理論研究が進んでいる。さらには、学生調査を利用してのIR(大学機関研究)が進展し、各大学にIR部門が設置され、そこでの実践的な研究にもとづいた教育改革も進展している。IRが機能することにより、アクレディテーション* 4に不可欠なエヴィデンスの作成も円滑に実施できている。学生調査は理論構築に向けての研究のみならず、高等教育機関における教育改善のためのエヴィデンスとして機能する要素をともなっている。それゆえ、米国での学生調査は、研究目的だけでなく高等教育機関の特性や教育プログラムと学生のラーニング・アウトカムへの効果や関連性をみるプロセス評価、いいかえれば間接評価として、多くの高等教育機関で使用されている。

 間接評価としての学生調査はさまざまな機会にいろいろな場所で活用される可能性が高い。学生調査を通じて、大学生の高校までの学習行動や学習に向けての構え、大学生の学習行動、生活行動、価値観や将来の進路意識等を把握し、そのデータの分析を通じて、大学生の実態や特徴を把握するだけでなく、大学教育の改善や労働市場から求められている課題にどう対応していくべきかといった改善に向けての不可欠なデータとして利用することが可能になる。「調査から何がわかり、そして大学教育の改善に向けて何をすべきか」という課題を立て、次に実際の改善策を実践し、検証していくというPDCAサイクルへと結びつけることもできるわけだ。また、高等教育機関の機能やかかわっている学生、教職員などアクターの活動の改善などの客観的資料として使用することもできる。具体的には、大学評価機関への提出データとして利用すること、学生の学習意欲や成果を向上させるための教育プログラムの開発へつなげること、教職員の研究、教育、およびサービスの向上等のFDへとつなげることである。このように高等教育機関にかかわる学生調査は幅広い意味で使用されている。
  • *1 2008年12月24日の中央教育審議会第67回総会の「学士課程教育の構築に向けて」(答申)を参照
    http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1217067.htm)。
  • *2 FDとは、ファカルティ・ディベロップメント(Faculty Development)の略称で、教員が授業内容、方法を改善し、向上させるための組織的な取り組みの総称。
  • *3 教育GPとは、文部科学省が「Good Practice」をキーワードとして行っているもので、大学における学生教育の質の向上を目指す個性・特色のある優れた取り組みを選定し、支援している。具体的なプログラムとして、「特色ある大学教育支援プログラム(特色GP)」と「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)」を実施していたが、2008年度から特色GPと現代GPを発展的に統合した「質の高い大学教育推進プログラム(教育GP)」を実施している。
  • *4 アクレディテーションとは、教育課程、教職員、教育条件(施設等)などの面から総合的に大学としての質を備えているかどうかを評価する制度。
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