学習基本調査・国際6都市調査報告書
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2.北京の調査結果の特徴に関する分析


劉 堅(中国教育部・基礎教育課程教材発展センター教授)
付 宜紅(中国教育部・基礎教育課程教材発展センター副研究員)

 (1)調査背景

1.類似調査に関して
 近年、中国では、教育研究の多くが児童・生徒の学習意識や実態に関心を示すようになり、また、2001年に始まった中国基礎教育課程の改革にともなって、中国国内でそれに対応した調査や研究が行われるようになってきた。したがって、最近では北京の小学生が今回のような質問紙調査を受けることが多くなっている。そのうちでも比較的影響力のある国際比較調査は、中国青少年研究センター、日本青少年研究所、韓国青少年開発院が共同で実施した北京(18校の1,553名)、東京(16校の1,576名)、ソウル(17校の2,120名)の小学4年生〜6年生を対象とした「小学生の生活習慣に関する調査」である。2007年5月28日、中国青少年研究センターは、この調査結果(『中日韓3国の首都における小学生の生活習慣研究』)を発表した。そのうち、とくに注目されたのは北京の小学生の勉強に対する関心が非常に高いことである。たとえば、学校の授業が終わると、「家へ帰って、1人で勉強したりする」割合は6割である。北京の小学生の67.7%が休日にたいてい「家で勉強する」と答えている。「よく勉強すれば、将来いい仕事がある」(53.8%)というのが北京の小学生がもっともよく耳にする親の言葉である。北京の小学生の親が重視する子どもの学習習慣の第1位は、「言われなくても宿題をする」である。さらに、78.2%の北京の小学生が「勉強のできる子になりたい」と思い、半数以上が音楽や絵画などの才能があればと願い、勉強がよくできる友だちが好きだなどと回答している。
  この他、中国国内の類似の調査にも同様の結果がみられる。たとえば、2005年10月25日に中国青少年研究センターから発表された北京、上海、広東、雲南、甘粛、河南の6つの市と省で行われた「中国の小中高生の学習と生活の実態と期待に関する調査」がある。それによれば、過半数の小中高生は、平日・休日を問わず、宿題をする時間が中国教育部の規定する標準時間を超えていて、とりわけ、中学生の標準時間超過の割合が非常に高い(中国教育部の規定によれば、小学1年生〜3年生は1日の宿題は30分以内に終える量、4年生〜6年生は60分以内に終える量とされている)。

2.本調査票の質問の設計に関して
 調査票の作成にあたって、今回の調査は現代の世界の小学生に共通している問題に対応した質問内容であると感じた。全体的に調査票の設計がとても細かく、児童の学習に関する意識・実態、たとえば、家での学習の様子、学習の行動や意識に関係する日常生活での行動習慣、さらには勉強の効用、社会価値観や将来希望する進学段階、心身の疲れなどが、広範囲にわたってたずねられている。したがって、本調査は一定の妥当性を備えており、児童の学習に対する意識や現在の学習実態を一定の側面から映し出すのに十分なものであるといえる。中国の児童の置かれた実際の環境や社会的、文化的背景を勘案し、私たちは調査票の中の個別の質問事項について修正提案を出した。その中には内容に関するものもあり、また言葉の表現上の提案もある。たとえば、質問10「あなたは、次のように思うことがありますか」では、北京版については、私たちは全6項目のうち、最初の2項目について修正した。日本国内の調査票では、「将来ふつうに生活するのに困らないくらいの学力があればいい」ではあったが、北京版では「将来生活するのに困らなければいい」に改めた。なぜかというと、調査票の中の「学力」に対する北京の児童の理解が他の国と大きく異なってしなう可能性があるからである。近年、中国の就職に対するプレッシャーは日増しに厳しくなっていて、社会の労働力は相対的に過剰で、大学を卒業しても就職できず、さらには仕事につけなくて、生活に困窮する修士や博士課程卒業者もいるという報道があるほどである。
  質問10の第2項目も同様である。日本版では「どこかの高校や大学・短期大学に入れる学力があればいい」を、北京版では「高校、短期大学あるいはふつうの大学に入ればいい」に改めた。修正の理由は、次の第3項目「できるだけいい高校や大学に入れるよう、成績を上げたい」の「いい高校や大学」とはっきり区別するためである。同時に、中国では高等学校、短大、大学間の学力格差が比較的大きいので、それを1つにまとめて判断を下すのは難しいことを考慮した。
  前述した質問以外に、「8 B.あなたは、どのくらいの成績がとれたらいいと思いますか」「8 C. あなたがうんとがんばれば、どのくらいの成績がとれると思いますか」「10 5. 今は勉強することが一番大切なことだ」などのような類の質問においては、中国の北京の小学生に関していうと、私たちは若干の懸念を抱いている。中国では、子どもの誕生から日々成長しているなかで、家庭・社会・学校では、「優秀な成績をとるのがよい子どもだ」「努力して初めてよい成績をとることができる」と子どもに対しいい続けている。中国では昔から、そうしたことを子どもに伝える故事や伝説が無数にある。学校や家庭において、疑いを挟む余地のない1つの結論が出てしまっている。したがって、子どもがこのような質問に答える際、思考がなされていない、回答が集中してしまうことが心配された。しかし、6か国が参加する国際調査であることを考慮して、できるだけそれぞれの都市の傾向がみられるように、統一した質問項目を保つようにした。

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