学習基本調査・国際6都市調査報告書
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  ロンドンの子どもたちの学校生活


舘林保江(国立教育政策研究所 教育政策・評価研究部研究協力者)
  今回の国際調査に参加した19校のうち、訪問したいくつかの学校の内容をもとにロンドンの小学校の様子を報告する。

 【1日の流れ】


登校から授業開始まで
始業前の整列  子どもたちは学校に到着すると、授業開始時刻を知らせる校長の鳴らす鐘の合図まで外で楽しそうに遊んでいる。イギリスでは子どもの安全を確保するために、保護者が登下校時に付き添うことが、「学校と家庭との契約(Home-School Agreements)」において取り決められている。低学年では、保護者の送り迎えが校舎内の教室の前まで義務づけられている学校もある。児童や保護者の服装も、ロンドンのようなコスモポリタンな都市では、民族的・文化的多様性を反映し、日本のそれとはかなり異なる。
 9時に授業開始を知らせる鐘が鳴る。外で遊んでいた子どもたちはクラス担任の元で一列に並び、静かに校内へ移動する(写真参照)。冬場はジャンパーやコートなどをクロークルームに置いてから教室へ入る。保護者と別れるときに、“ハグ(抱きしめること)”をしたり、キスをしたりする子どもの姿もみられる。
 各教室に入ると、出欠席や今日の連絡事項が確認される。この出欠席の確認は、午前と午後の1日2回行われ、子どもにとっても、学校にとっても大変重要である。近年は、コンピューターの導入により、この出欠席の確認を電子情報ボードに映し出して行う学校もある。視覚にも訴えることで、子どもにも出席が重要なことを確認するのである。

 【学習面に関して】

1.授業の規律と発問の工夫 
  授業は教室内にあるカーペットのところに集まってから、開始となることが多い。低学年においては、椅子に座っての学習よりも、作業を通じての活動が多いので、ともすると授業の規律を保つことが難しいこともある。フォーマルな授業開始のあいさつはないが、座ったままで軽くあいさつをしたり、子どもの気持ちを切りかえるために、物まねゲームや鈴や笛を用いたり、1から10まで数える間に作業を終えるように励ますなど、遊びの要素を取り入れながら、子どもの集中力を高める工夫をする教師もいる。もともと規律を重要視してきたイギリスにおいても、近年、子どもたちの話を聞く態度やしつけに関しては大きな課題となっている。
  授業中に教師が行う発問は、子どもたちの知識を確認するだけではなく、思考能力を鍛えるものが多い。ペアワークや少人数でのディスカッション、クラス全体での議論などで、自分の意見を表明することも大切にしている。

2.家庭学習 
  政府は、1998年に「家庭学習に関するガイドライン(Homework:Guidelines for Primary and Secondary Schools)」を制定し、家庭で学習することは、子どもの学校での成功だけではなく、生涯にわたる学習のスキルと態度を身につけるために重要であると強調した。
  そのガイドラインでは、初等学校の第1・2学年に対しては週に1時間(読み書き計算の練習)、第3・4学年では週に1.5時間(読み書き計算の練習と他の教科に関する宿題も時々)、第5・6学年では毎日30分間(継続的な読み書き計算の練習とカリキュラム全体における宿題)の家庭学習をするようにとなっている。そのためには、保護者の協力と積極的なかかわりが大切である。
  イギリスでは、保護者が子どもの学校を決める学校選択制なので、各学校は自分の学校の教育目標や教育活動について紹介をする「学校案内(prospectus)」を作成する。その中でも、保護者の教育へのかかわりの重要性が明記されている。
  ある学校では、第3学年以上では週に1度プロジェクトワークが出される。週末家庭で行うように、木曜日か金曜日に課題が出され、その週の学習内容を練習したり、自分でさらに調べたり、まとめたりすることが求められる。初等学校では教科の枠をこえ共通のテーマに基づいて学習をするトピック学習が行われるために、たとえば、「テューダー朝」を共通テーマとする場合、ICTの授業で調べたことを、さらに家で補足し調べる課題が出たり、美術の授業で製本して作成するために、そのデザインを考える課題が出される。
  低学年においては、本読みが毎日の宿題として習慣化されている学校もある。自分が読みたい本を読む場合と、子どもの能力に応じた本を教師が選び指定する場合がある。そして、保護者が読書の記録帳に承認のコメントを記入する。

3.成績表 
  学校の成績表は教科ごとの点数表示ではなく、教科ごとに教師のコメントが寄せられる。ロンドンのある学校の成績表の項目には、「人格的・社会的な到達と市民性(Personal and Social Achievement, Citizenship)」「読み書き(Literacy)」「算数(Maths)」「理科」「ICT」「美術、体育、音楽」「人文科目と宗教教育(Humanities and Religious Education)」「家庭や学校での努力や改善点についての達成目標」「出席率」「補足支援(Additional Support)」などがある。クラス担任によりコメントが書かれ、最後に校長がサインをして、児童に渡される。
  この学校の成績表には、「読み書き」「算数」「理科」「ICT」の4教科に対しては、教師からのコメント以外にも児童の「努力と態度(effort/attitude)」と「進歩(progress)」に関して4段階の「とてもよい(very good)」「よい(good)」「まあ満足(satisfactory)」「芳しくない(poor)」という評価もついている点が興味深い。さらに興味深いのは、「家庭や学校での努力や改善点についての達成目標」に対しては、子ども自身による目標が掲げられ、それに対してどのように自分で評価するのかという自己評価も内容に含まれている点である。
  コメントを記入するスタイルの成績表であるために、教師にとっては非常に時間のかかる作業である。7月中旬の学年度末に渡すために、5月のハーフターム(各学期の半ばにある1週間の中休み)より準備を開始する教師もいる。
  成績表をつけるにあたっては、「ノート」「プロジェクトワークでの提出物」「宿題の提出物」「授業中の教師との質疑応答の内容と理解」などを材料として、それらのでき具合を総合的な視点で判断し評価する。たとえば、男子は女子と比較して、ノートやプロジェクトワークでの質は劣ることはあるかもしれないが、口頭での質疑応答では、その児童の問題に対する分析や考察に素晴らしい点がみられる場合もあるとのことである。筆記試験や一元的な判断によらないで、子どもの能力や才能を多角的・総合的に評価することを重要視している。
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