ベネッセ教育総合研究所 高校生の学力変化と学習行動  
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第3章 各教科における学力の壁を乗り越えるための学習と指導

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はじめに

 今回の学力検査の目的として、今の受験生の学力が5・6年前の受験生と比較してどう変化しているかを見ることが挙げられる。同時に今も昔も変わらない受験生の弱点を再確認することもできるだろう。これら2つのことに着眼点を置き、学力層別(偏差値による)の各問題の正解率および学習習慣に関する調査の回答等の分析結果をもとに現状とその原因を考察し、生徒たちの今後の学習の在り方、そして教師の指導法について述べたいと思う。

(注)本文で紹介するデータは、全て本調査の参加者全体(15校)の合算集計である。

集計人数(数学受検者)
前回(平成7年)4,375名
今回(平成13年)3,981名


第1節 「学習習慣に関する調査」について


 学習習慣に関する調査において、数学に関する質問項目の結果(あてはまるとした割合)を学力層別に取り上げ、それぞれの結果について私の勤務する学校の生徒たちの実態に照らしてコメントしたいと思う。学力層は偏差値別に次のように分けた。

各学力層の区分定義

A層 B層 C層 D層 E層
SS60 以上 SS55〜60 SS50〜55 SS45〜50 SS45未満
(数学は進研模試の偏差値)

Q1.(授業がある平日に)毎日欠かさず数学の授業の予習または復習をする。           
Q2.日曜日に予習または復習をする。 
 

データ15


 Q1については「毎日欠かさず」という条件が付いているので数値が予想より低くなっていると思われる。また宿題が予習復習を兼ねている場合が多いので、宿題と全く別に予習復習をしているかの意味にとらえた生徒も多いものと思われる。

 平日ではC層→D層→E層と学力層が下がるにつれ、予習復習をする割合は1割ずつ減少している。日曜日ではE層の生徒の数値が極端に低い。予習復習をしていない生徒は特に数学における予習の必要性を分かっていないように思える。授業中に100%理解することは不可能かもしれないが、その時間に扱う問題を事前に解く、もしくは考えることで理解度は高まるものである。さらに復習をすることに関しても、理解度が低いと意欲もわかず、やらないでいるうちに積み残しが増え、悪循環になっていく。これはどの教科も同じことであるが、数学はこの積み残しを3年次に一人で解消するのは不可能に近い。

 一方、教師は「予習・授業・復習」のサイクルで学習することの重要性・必要性を生徒に認識させるために、生徒自身が理解できたと実感できるような内容のプリント作成、または学習の指示をしなければならない。私が勤務する高校では「課題学習」というプリント学習のシステムがあり、生徒の学習の定着に貢献している。課題学習については、私が昨年九州算数・数学教育研究大会で発表したものの一部を最後に掲載しておく。

Q3.平日に数学の宿題があれば必ずする。
Q4.日曜日に宿題があれば必ずする。

データ16

 平日の宿題が提出できない生徒が増えている。目的意識が低く勉強をする習慣が身に付いていない生徒も多いだろうが、部活動や塾などで時間をとられている生徒も多いのではないかと思う。そのような生徒への指導に苦労している教師も多いだろう。実際、私も生徒の放課後の活動や家庭での生活状況までなかなか把握することができず、生徒一人ひとりに対応した指導がなかなかうまくいかない。1日の生活・学習などを記録する「私の生活学習ノート」という冊子を私の勤務校では活用しているが、実態把握にはそれでも限界がある。

 生徒に宿題を「やらなければいけない」もしくは「やろう」と思わせるにはどうしたらよいだろうか。提出しない生徒に対する厳しい指導も必要であるが、それだけでなく、宿題の内容を次の日の授業と連動させたり、宿題の授業での扱いの工夫なども重要である。また、提出しない生徒の指導(放課後まで含めた指導)の徹底と工夫(部活動との連携)も重要である。

Q5.平日に1日あたり90分以上自宅で数学を学習する。
Q6.日曜日に90分以上自宅で数学を学習する。

データ17

 生徒たちは毎日の数学の自宅学習では何をしているのだろう。宿題にかかる時間がせいぜい30分から60分くらいだろう。予習復習を加えたら90分くらいにはなるだろうか。Q1Q5の回答の数値が近似していることから推測できる。

 私はこの90分という時間を生徒たちにいつも意識させている。90分数学を勉強すると決めていたら、宿題がいつもより早く終わった場合、残った時間は明日の予習をする生徒が出てくるだろう。また、テレビを見たりしながらだらだらと勉強をするのではなく、90分で宿題と予習復習を終わらせるために集中して勉強しようと思う生徒も出てくるだろう。このようにして「90分学習」を定着させることで宿題の提出率も上がり、成績の向上につながるのではないだろうか。

 2年次までは生徒たちに90分勉強させるための工夫をしなければならないが、3年次では逆のことを考えなければならない。宿題・予習・復習に自分の進路にあわせた受験勉強も加わり、一日90分では対応できない量になる。数学だけでなく、他の教科もそれぞれ受験勉強に突入すれば、当然各教科の勉強時間の確保で悩む生徒もでてくるだろう。我々教師は他教科と宿題の量のことで連携することは少ないと思う。しかし生徒にとっては、これほど重要なことはない。質を重視した宿題の精選を心掛けなければならない。

Q7.問題演習を授業の進度に合わせて、その都度行っている。
データ18

 「これこそ「数学の問題を解く力」をつけるために必要なことである。この回答率を見ると、「数学は公式さえ暗記すれば問題は解ける」と誤解している生徒がまだ多いことが推測される。

 数学の問題を解くためには「ひらめき」が必要である。これを数学的センスというのだろうか。この場合の「ひらめき」とは無からの「創造」ではなく、これまでの経験からの「想像」を意味すると思う。数学的センスのある生徒は生まれたときから「ひらめき」があるわけではない、ということは、みんなが分かっている。「ひらめき」を会得するにはそれなりの努力が必要であり、その努力のひとつが知識とテクニックを習得するための反復練習であると思う。

Q8.授業はしっかり聞き、大切なことはノートや教科書に書き込む。

データ19

 「授業をしっかり聞く」に関しては納得できる数値ではあるが、「大切なことはノートや教科書に書き込む」はもっと低いと思っていた。確かにノート(プリント)を点検すると女子生徒はカラーペンでコメントを書いているのをよく目にするが、男子生徒は自分でも読めないのではと思えるようなノートが多い。問題の解答や板書だけでなく、口頭で説明した内容を書き込む習慣をつけさせる指導が重要である。結構、我々教師は大切な補足説明や具体例、他の分野との関係などを言葉だけで済ますことが多いような気がする。

Q9.授業を聞くよりも、板書を書き写すことの方に集中している。

データ20

 A層にこのような生徒が2割もいるのには少し驚いたが、大体予想通りの結果である。演習問題の解説に黒板を使うとき、生徒たちは書き写すことだけに集中し、授業を聞かなくなる傾向がある。板書の時間を確保し、説明を聞く時間と区別できればよいが、進度の関係もあり、そう時間がとれないのが現状だと思う。私の勤務校ではこのことを改善するためにも後述する「課題学習」が活用されている。

Q10. 授業は聞くが、なかなか集中できない。

データ21

 50分の授業で始めから終わりまでずっと集中し続けるのは不可能だと思う。勉強に真剣に取り組めない生徒たちにとっては特にそうである。我々教師はこのことを十分理解し、説明を聞く時間と演習など生徒が活動する時間、そして派生的話題の時間も含めて授業にメリハリをつけ、生徒たちに授業が短かったと感じさせる工夫をしていかなければならない。

Q11.数学については理解できている。

データ22

 生徒たちは、他教科と比べての相対的な理解度を示したのだと思う。今回は、英語・数学・国語について質問しているので理系科目と文系科目の理解度の意味合いの相違もあるだろう。数学の学力層で国語の理解度を見てみると逆の結果が出ていた。しかし文系科目の英語では数学と同じ傾向があり、英語と数学の学力に相関が高いことが再認識できた。

 D・E層の数値の低さが気になる。授業で説明・解説を聞いて理解することが第1である。中学校の内容からつまずいている生徒も多いと思われるので、1年の1学期から夏休みにかけて小テスト・宿題・補講などで中学校の内容を総復習することが必要だと思う。

 また、生徒たちに「授業を聞いて分かる」という理解のレベルと「問題が解ける」という理解のレベルは別であること、そして問題が解けるようになるまでが勉強であることを認識させたい。「聞けば分かるけど解けない」と悩んでいる生徒はかなりいる。このような生徒が数学離れを引き起こしていると思う。数学の勉強法の適切なアドバイスが必要である。

Q12.数学は得意な方である。

データ23

 Q11の回答とほぼ一致する結果である。しかし気になることがある。問題が解ける・解けないというラインで生徒たちは得意・不得意を分類しているのだろうか。本来、数学という学問は問題が解けることが重要ではなく、物事を理論的に考え、それを論理的に組み立て、そしてそれを第三者に伝えるといった能力が重要だと私は思っている。そのようなことが得意な人は数学も得意だと思う。しかし、生徒たちにとっては問題が解けるかどうかが最重要課題である。数学者の端くれとして少しさびしい気がする。

Q13.数学で解けない問題があるとき、すぐにヒントや答えを見ずに、20分程度か、それ以上自分で考える。

データ24

 問題にもよるが、高校レベル・受験レベルで1つの問題を何も見ずに一時間以上考えてもあまり意味がないと思う。この結果も興味深いが、それよりも私は生徒たちが20分考えた末に問題が解けなかった場合どうするかが知りたい。教科書・参考書を見るのか、友達や先生に質問するのか、それともそのままにしておくのか。これが一番重要なことだと思う。どう取り組んでいるかが分かれ目になっていると思う。

 余談ではあるが、私が大学生の頃、ある講義の最後に問題が当てられた。一週間後その授業で私は教授に「解けませんでした」と言った。すると「たった一週間で結論を出してはいけない。来週また発表しなさい。」と教授に言われたことを思い出した。その時私は一週間図書館に通い、また教授の部屋を訪ねるなどその問題を解くためにできることは何でもした。そして次の週の講義で発表できた。



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