ベネッセ教育総合研究所 高校生の学力変化と学習行動  
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第3章 各教科における学力の壁を乗り越えるための学習と指導

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第1節 偏差値50の壁を乗り越えるための学習と指導

1.理解したことを覚えているか?

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 グラフは、それぞれの質問について「非常にあてはまる」、「ややあてはまる」と答えた割合の合計(%)

 

 学習習慣に関する調査の結果では、英語の学習について、どの学力層においても94%以上の生徒が「単語や文法を覚えること」の必要性を自覚している。しかし「英語が理解できている」と答えた生徒は、学力C層で23.1%、学力D層で14.1%しかいない(「非常に」+「やや」あてはまると答えた割合)。

 単語や文法を覚えることの意味や重要性は自覚していながら、覚えるべき内容が十分に理解できていない。理解できないことを覚えても実力として身につかないし、少なくとも長期的な記憶として残ることは期待できない。一般的に英語が苦手な生徒は、自分で内容を理解できていないことの棒暗記(丸暗記)に必死になり、膨大な時間を浪費する傾向がある。労多くして益少なしである。ではなぜ内容が理解できないのだろうか。生徒の努力不足も大きな要因であろうが、ここでは教科書や教材のレベルについて考えてみることにする。


データ48

 

2.教科書・副教材のレベルは適切か?

 各高校では生徒の学力に合った教科書が選択されているはずであるが、特に進学者が多い高校では、実際には生徒の学力よりも高いレベルの教科書が選ばれる傾向がある。概して、教師が適切と判断する教材を生徒は難しいと感じ、教師がやさしいと思う教材を生徒は適切と考える傾向がある。成績上位の生徒は教科書のレベルによって影響を受けることはあまりないが、中位や下位の生徒の場合は、教科書のレベルによって大きな影響を受ける。十分に基礎ができていない生徒が、程度の高い、難しい問題集などに取り組み、先へ先へ進もうとしても学力は伸びない。学習材料に無理があるからである。学力に合わないレベルの高い教材を用いると、かえって英語力は伸びない。「分かる授業」の前提になるのは「適切なレベルの教材」の選択である。そのためには、使用した教材のレベルが適切であったかどうか生徒に評価させることも必要であろう。

3.生徒に意見を求める

 学力中位群・低位群の生徒の指導ほど、授業が「教師→生徒」へと一方通行になり、生徒の授業に向かう姿勢は受け身になりがちである。その結果、活気のない授業のマンネリ化を生み、生徒の学習活力も低下する。そこで授業や教材について生徒に意見を求めてみる。その意義は、

生徒理解が深まる。
授業や教材について、生徒の視点から示唆が得られる。
授業の欠点や改善点を知ることができ、具体的なやり方を工夫する示唆が得られる。
などである。

 英語を苦手とする生徒に対する教師のあるべき姿は、「“何とかして生徒のみんなに分かる良い授業をしよう”と熱意を持っていることを、生徒に感じてもらうようにする」ということである。それによって生徒も意欲がわき、英語の勉強を頑張ろうという気持ちへと発展していく。そのような教師の姿勢を示す一端が、使用教材について謙虚に振り返る機会の設定である。


4.50の壁を越えるために必要な学力

 以下は学力C層とD層の間で正解率に差がついた問題である。

 は会話に特有な口語表現の知識、対話の具体的な場面・状況を把握する力、登場人物の人間関係を推測する力、話題と発話内容との整合性をとる力、文意が成立するように適切な台詞(せりふ)を選択する力が求められる。結局は、対話の流れをつかむ能力である。

 は登場人物と時間・場所や品物を押さえて、それらの関係を整理して、必要に応じて主人公の心理状態を正しく把握する力、速読速解力(本文も選択肢も)が求められる。
文章の流れを把握する力である。

 は連結語や代名詞、相関語句に配慮しながら、「抽象→具体」や「原因→結果」など論理的に英文を構成する力が求められる。

 いずれもかなり高度な英語力が試されている。基礎学力が不足している生徒がこのような問題に対処していくにはどうすればいいのだろうか。


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5.読解と並行した単語・文法の定着

 英語の基礎力が不足している生徒のほとんどは長文を読むスピードが極端に遅い。その理由は未知の単語が多すぎるということである。最低限これだけは必要、とされる単語や文法の知識が詰め込まれていなければ、効率的な長文読みは不可能である。単語や文法の知識があれば、辞書を引いたり、考え込んだりする余計な時間を節減できる。

 しかし、「文法と単語を覚えてからでないと長文読解はできない」と思い込んでいる生徒は意外と多い。確かに、文法と単語を知っていれば長文が読みやすくなるのは事実であるが、そのためだけに時間をかけるのはバランスを欠き、効率も悪い。最低限の文法と単語を身につけた後は、長文読みにすぐに移行した方がよい。

 英語の基礎力が足りない生徒は、高3生であっても中学校〜高1段階の基本重要単語が身についていないので、その単語を短期集中的に確実に覚えさせ、あとは長文読解の中で単語力増強を図る。読みながら覚えることによって単語の定着を強化することができる。
 
 文法については、高1レベルの文法をしっかりと復習させる。読解に必要な文法は、

動詞の語法(パターン・文型)
関係詞
準動詞(不定詞・分詞・動名詞)
比較・否定などの重要構文
倒置、強調構文、省略


である。完全にマスターすることは無理であろうから、あとは長文読みの際の辞書引きの中で単語の用法等を確認させ定着を図る。

 英文の意味を理解していく上で重要なのは、まず「誰(何)がどうした」という、文の骨子を作る主語と述語動詞を見抜くことだ。また、構造が分からない英文にぶつかっても辞書で単語の用法を確認していくと、そこから活路が開けてくることも多い。なお、長文の題材は先にも触れたように難しすぎないレベルのものを選ぶ必要がある。

 最近の入試は「正確な和訳」よりも「一読して内容を把握する力」が重視されている。長文読みに慣れていないと入試では苦戦を強いられる。単語・文法の力をつけるだけでは入試は対応できない。適切なレベルの長文を大量に読みこなす中で単語力と文法力を同時につけていく必要がある。

6.書く作業の重視−理解の深化と定着の強化のために

 視覚世代の生徒は、目で見て覚えようとする。しかし「理解を深めること」と「定着を図ること」の2点については、書く作業を抜きにしては考えられない。意味が理解できている英文を繰り返し音読することは話す力と書く力をつけるためにも有効であるが、特に中位レベル・下位レベルの生徒にとって、大切なのは意味が理解できている英文を繰り返し書くことである。そして、日本語を見てその英文を再生できるレベルまで書くことである。英語の力がある生徒は、基礎的な英文をできるだけ数多く頭の中に蓄積しており、必要に応じて出していける。そのレベルまで引き上げていくためには、生徒にそれ相応の努力を求めなければならない。

7.授業で何をやるのか

 「何を授業時間の中でやるべきなのか」と「何を生徒の家庭学習に任せるべきなのか」を厳しく問い、整理しなければならない。家庭でできること、あるいは家庭でしなければならないことを授業時間の中でダラダラと続けていることが結構多い。家庭学習でやることと、その意義を生徒に説いて納得させ、書くことと読むことを中心とする生徒の家庭学習が充実してくると授業も充実し、学力向上の環境ができてくる。

8.やさしいものを難しく教えない

 難しいものを分かりやすく教えるのが教師の仕事であるが、われわれ教師は、やさしいものを文法用語を多用して難しく教える傾向がある。文法用語の使用は必要最小限に押さえ、既習事項との類型や比較・対照を駆使して、説明に工夫を加えたい。教師の説明が不明瞭なことを無理に覚え込む苦役を生徒に押しつけるべきではない。 

9.努力を三ヶ月間は継続させる

 一般的に学習には「累乗」の効果がある。勉強量と成績の関係は、単純な比例関係にあるのではなく、むしろ等比級数的な上昇カーブを描く。

 つまり、勉強に取り組みはじめて間もない頃は、その努力の割に成績が伸びる(理解の度合いが高まる)実感を、なかなか持つには至らない。しかし、手抜きをしないで努力を続けていくと、成績は1、2、4、8、16、32・・・のように伸びていくのである。

 一方で、生徒は「努力をしたほどには成績が伸びない」と感じた時点で努力を放棄してしまうことが多い。しかし、辛抱強く勉強を繰り返すことのできる生徒ならば、成績はさらに64、128・・・とアップしていく。ここまで努力をして、やっと勉強の効果が目に見えて実感できるようになる。

 これが勉強と成績の関係の本質であり、勉強の成果は勉強を辛抱強く継続してやっと現れてくるのである。

 勉強を継続していると、山頂に立ったときのように突然視界が開けて、物事の理解ができるようになったと感じる悟りに似た時があるが、これこそが累乗の効果である。効果がはっきりと目に見えてこなくても、努力した分だけ着実に、基礎力は蓄積されていく。一般的に、勉強を始めてから効果がきちんと現れるまでに、どんなに早くても三ヶ月はかかると言われる。生徒にはこのような情報を伝えて継続的な努力を奨励しなければならない。英語習得の過程で絶対に欠かせないものは「繰り返す努力」と「めげない根気」である。


10.授業で鍛える

一斉授業が抱える

教師の指導が中心となるため、生徒が受け身になりやすい。
生徒一人ひとりの能力や進度に合わせられないので、生徒は自分の勉強のペースを守りにくい。


という弱点を克服するため、次のような学習環境を作っていく必要がある。

生徒の能力や特性に応じた指導を行う
クラスメートが協力したり、競争したりして学習し、自然に競争意識と連帯感が芽生え、学習効果を高める雰囲気を作る。
教師と生徒が人間として触れ合い、お互いの感情と意志の疎通をはかる。
予習・復習で分からなかった点が質問できる雰囲気を作る。




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