ベネッセ教育総合研究所 高校生の学力変化と学習行動  
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第3章 各教科における学力の壁を乗り越えるための学習と指導

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  第2節 偏差値60の壁を乗り越えるための学習と指導


 
1.壁を越えるための学力は何か

  領域別の正解率を見てみたい。学力C層とD層の間(境界は偏差値50前後)では、「文法」と「作文」に差が見られるが、学力A層とB層の間(境界は偏差値60前後)では「語彙」と「リーディング」において差が大きい。(グラフ2)

 語彙力と長文読解力をつけるためには長文の読み込みが不可欠である。英文(長文)の読み込み量の差が偏差値60の壁を越えるかどうかを左右する重要な要因なのである。

 では、この偏差値60を切る生徒が読むべき英文のレベルはどのようなものであるべきだろうか。

 

2.+αの負荷を持ったレベルの長文

 偏差値60の壁を越えようとする生徒が学習する言語材料には、生徒の理解度を少し上回るレベルの内容(+α)が含まれていなければならない。教師は限られた時間の中で、英語をシャワーのように生徒に浴びせかけるようにして最大限のメッセージを与えるのである。しかし、いくら英語のシャワーを浴びせても、その中身が理解できなければ言語の習得は起こらないし、内容が生徒の理解力に適合した難易レベルでなければ実力は伸びない。そこで教師は、そういう多量の教材が、生徒にとって適切な難易であり、+αの言語材料を含んでいるかどうかを絶えず確かめる必要がある。ところで、いくら多量に英語の教材を与えても、生徒が食いついてくれなければ意味はない。そこで教師は生徒の知的水準や、能力を勘案しながら、絶えず魅力ある教材を選定する必要がある。+αの教材選定のためには、教師は生徒の学力把握は勿論、与えられている教材が理解されているかどうかを確かめるcheck of understandingの作業を意識的に各教材ごとに行わなければならない。生徒から評価や感想を求めることの重要性は第1節3.で触れた通りである。

データ51

3.考えすぎない

 教えすぎが原因で生徒の学習意欲が阻害されるケースがある。完全週五日制の導入により、英語の授業時間数が減少するため、教員は少ない時間数の中に多くのことを盛り込もうとし、ますます教えすぎに拍車がかかりやすい状況にある。講義中心の授業が展開され、多くの生徒が消化不良のまま進度だけは先に進んでいるという状況が増える危険性が高い。教える量を単に減らすのではなくて、何は教え、何は教えないで学ばせるか、つまり、学び方をいかに育成するか、という視点からの見直しが必要である。全てを教えようとしたり、教える量をカットして済ませるのではなく、生徒の自己学習能力をいかに育成していくのかを真剣に考える必要がある。教師が教えるという行為は、生徒が学ぶという行為が保証されて初めて意味を成す。一コマの授業の中において、教えるべきところと生徒の学びに任せるところを考えて、指導と学習が両立していく状況を作り出す工夫が必要である。
“We cannot teach a language; we can only create the conditions under which it will be learned. ”
(von Humboldt)

4.予習の役割と効果

 学習はまず予習から始まる。偏差値60を切る生徒が授業の内容を最大限に活かし、学力を着実に伸ばしていくためには、家庭で予習していくことが必要不可欠である。予習をどの程度していくかによって、授業中に身につく内容や理解度に大きな差が出る。

予習の役割と効果には、

授業の内容が予想でき、重要なポイントが分かり、説明を早く理解できる。
疑問の部分がどこにあるのか分かるので、その点を理解しようと積極的に授業に集中できる。
内容が分かり、重要な点が推測でき、理解も早いから、無駄なく、要点だけを整理しながらノートが取れる。
自信と余裕を持って講義が聞ける。
予習中に、疑問点にぶつかった時に、前に出てきた問題を復習し直す必要に迫られ、基本学力の強化に役立つ。
十分な予習は、講義内容の理解を助け復習の時間と精力を節約できる。
予習をやると教師の話がよく理解できるから、疲れないし、授業が短く感じられる。
などがある。

 同程度の学力レベルの生徒でも、予習をしっかりしてきて、授業中に自発的に学習しようと努力し、講義内容を理解しようと、目的・目標を持って、積極的に授業に参加している者と、予習もせず、目的・目標もなく、ただぼんやりと受動的な態度で教師の話を聞いている者とでは、次第に学力に差が出てくる。積極的に授業を受け、精神を集中している生徒の方が、理解するのと同時に記憶もしているので、復習確認テストの結果も良い。一方で、受動的に教師の話を聞いている生徒は、考えごとをしたり、眠くなったりして、どうしても注意力が散漫になり、理解度が低くなってしまう。

5.復習の効果と方法

 家庭で十分に予習をして、授業に出席し、いくら熱心に教師の説明を聞いても、受けっぱなしでは学力の向上は期待できない。学力の向上をもたらす英語学習の3大原則は、

 必ず予習すること
 授業で完全に理解すること
 復習して完璧に覚えること


であろう。この3原則をいかに生徒に義務づけ、実行させることができるかで、受け持つ生徒の学力は決まってくる。

 については先に触れたので、ここではの復習について考えてみる。復習には、基本的なパターンとして次の3つがある。

整理
 その日の授業で習ったバラバラの材料を、ノートなどに順序よく並べ、系統づけたり、分からなかった所を調べたりすること。また時には、前に学習した材料と関係づけたりすることである。整理作業によって、同じ内容をもう一度学習するので理解が深まり、記憶が確実になる。

練習
 授業中に学んだ内容の反復練習である。英語の読み書きなどの反復練習は、忘却を防ぎ、暗記に欠かせない作業であり、記憶を増幅し、学力と学習習慣を身につける基本である。

補強
 授業でカバーできない自分の弱点を確認し、補う学習である。授業で習った基礎的な事柄をさらに発展させ、応用力をつける作業も補強の中に入る。

 また、記憶の定着を完全にするための指導としては、

ア 毎日テストを実施して、昨日の学習内容を完璧に暗記したかどうかを確認する。
イ 完璧に暗記するまでテストを繰り返す。

ことなどが必要である。学習の基本、学力向上の絶対条件は、予習→授業→復習の輪が渾然一体となって機能し続けることである。

6.復習による効果的・能率的な記憶

 生徒に復習を効果的に行わせるためには、次のような教師からのアドバイスが有効であろう。

完璧に覚えることを目標に、意欲的に取り組ませ、限界点を越える学習を体験させる。
記憶力は体調や気分に影響されやすいので、学習前後に、不快・不愉快な経験をできるだけさせないようにする。
学習作業が遅いと精神集中度が低下するので、教科書やノートを速く読ませ、単語や文を速く書かせるようにする。
記憶しようとする内容について、復習の「整理」の段階で要点をしっかりまとめ、秩序立てたり、系統立てたりする。
短い時間内に可能な限り多く記憶しようと最大限努力させ、積極的に取り組ませる。
何回でも覚えられるまで反復させる。
最初、黙読で覚え、次に音読して暗記し、三番目に音読しながら文字に書いて記憶するというように、反復練習するとき、感覚器官を変えて使ったり、できるだけ多くの感覚器官を同時に動員したりして記憶させる。


データ52

7.更なる語彙力のアップ

 以下は学力A層とB層の間で正解率に差がついた問題のトップ3である。いずれも語彙力が出来不出来の要因となっているようである。

 「偏差値50の壁を越えるための学習と指導(第1節)」の中で、英単語・熟語は長文読解の中で覚えていくということを書いたが、別の考え方をすると、強引ではあるが短期集中的に覚え込む方法もある。

 英単語を集中的に暗記する勉強の効果は、

記憶力増強のトレーニングになる。
長時間勉強する習慣を身につけ、耐久力、集中力を養う。
語彙が増え、英語の基礎力がつき、英語の学力向上に直接結びつくだけでなく、同時に、他の教科への学習意欲がわいてくる。
やればできるという自信がつく。
などである。短期集中暗記と長文読解の中で覚える2つの方法を併用していけば単語力は着実に身についていく。

 覚える際には、類義語や反意語などの関連語を同時におさえていくのも語彙力を増やすコツである。また、接頭辞や接尾辞に注目させることも必要である。

8.予習における和訳について

 次のグラフは各学力層別の英語の学習状況である。(グラフ3)

 特に予習段階での本文訳については、上位層と中・下位層において取り組みに差が出ている。

 予習段階で本文を訳すことについては以下のような工夫が必要である。

和訳はきれいな字でなくても良い。
※とりあえず自分が読める程度で十分である。

辞書で調べても分からなければ赤ペン等で印をつける。
※「どこが分からなかったか」を分かるようにしておく。

日本語の表現の細部にはこだわらない。
※英文の構造がつかめているかどうかを重視する。

読めなかった英文にこだわる。
※訳せなかった英文には線を引くか、ノートに書き写して、S、V、修飾関係などを教師の説明や辞書を頼りに徹底的に分析する。構造分析をした後に自分の和訳を書く。

 実力がつくまでは、訳すのに時間がかかるかもしれない。しかし、自分で苦労して調べた単語、知らなくて訳すのに苦労した構文や文法は頭の中に残る。まず、自分で辞書を引き、知らない単語はきちんと書き出し、前後の文脈にも注意を払い文章の意味を考える。これが英語の力をつけるいちばんの近道である。

 また、和訳が自己目的化して、直訳か意訳かなど、英文の意味を把握することではなく日本語の表現の方に重点が置かれすぎないように配慮しなければならない。また、和訳の作業が習慣化して、訳さないと理解した気分になれないというようなことが無いようにもしなければならない。

 和訳の作業は意味内容の理解が主要な目的であるが、授業自体の目的はこの内容理解にはとどまらない。内容理解は、授業の目的ではなく、あくまでも出発点である。意味内容の理解の上に、その言語材料を使った言語活動があり、その言語活動を通して、言語能力を高めていくのが授業の目的である。 



データ53

 グラフは、それぞれの質問について「非常にあてはまる」、「ややあてはまる」と答えた割合の合計(%)

9.訳したあとの通読

 授業も家庭学習も訳して終わりということがないようにしたい。知らない単語や訳せない英文がなくなった段階で、全体を2回ほど通読すると力になる。

10.読み慣れる

 英語を速く正確に読めるようにするには、英語をたくさん読むこと、読み慣れることである。英語をたくさん読み、読み慣れてくると、英語のリズムが伝わってくる。リズムが出てくると、おのずとスピードがついてくる。ある程度スピードがついてくると、単語や構文に気をとられないで、話の筋を追うようになる。話の内容がくっきりと浮かび上がってくると、話の展開の仕方が予想できるようになる。事態の進展が予想できるようになったら、読むことが楽しくなり、読解力は飛躍的に向上していく。偏差値60の壁は、読み慣れを踏み台に越えていかなければならない。




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