ベネッセ教育総合研究所 高校生の学力変化と学習行動  
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第3章 各教科における学力の壁を乗り越えるための学習と指導

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第1節  偏差値60の壁を乗り越えるための学習と指導・現代文


(1)層間差に見られる特徴

 まず、学力A層の正解率から学力B層の正解率を引いた「差」について、前回の調査と今回の調査を比較して、その「差」が大きくなった設問に着目した。

 学力A層と学力B層の境界の偏差値は60前後に設定してある。そのため、「学力A層の正解率とB層の正解率の差が(過去に比べて)大きくなった設問」は、現在の生徒が偏差値60を越えようとするときに、以前の生徒が感じた以上に「壁」の存在を感じやすい設問ということができる。

 この視点から、二つの問題を指摘したい。

 一つは語彙に関する問題である(図1)。選択肢にもよるが、「エン(演)劇」など、生徒が日常的に使用することの多い語彙については学力層間で正解率の大きな差は見られない。しかし「徴コウ(候)」などのように、日常的に使用することの少ない語彙の書き取りに関しては、下位層の生徒はもちろんのこと、B層に該当する中上位程度の学力がある生徒についても漢字力の「もろさ」が見て取れる。一方「際どい」などのように、普段目に触れ耳にしている語句でも、その語義についてはあいまいなことが多い。センター試験にも頻出するこの種の問題は、「語義→例文→文脈」という確認作業が必要となる。硬質な文章に頻出する語句の書き取りの力や、語義をしっかり踏まえた上で文脈から語句の意味を判断する力の有無が、偏差値60の壁を越える上でカギを握りそうだ。

各学力層の区分定義
A層 B層 C層 D層 E層
SS60 以上 SS55〜60 SS50〜55 SS45〜50 SS45未満


データ1


データ2

 もう一つが論理的思考力にかかわる問題(図2)であり、現・古・漢を問わず、全ての分野でこの能力の低下が見られる。評論・問2は傍線部の内容を説明する言葉として、傍線部以降の広い範囲からキーワードを見つけ出さなければならない。また、段落相互の関係性をとらえる力も要求される。評論・問4は要旨の把握に関する設問であるが、選択肢が本文に「書いていないこと」にまで言及している点を見落としがちである。センター試験形式の問題の場合は選択肢の細かな検討も必要であり、その能力の差が如実に表れたといってよい。きめ細かな読み取りの力と、大まかにとらえる力の両方が現代文読解には不可欠であり、その前提として読解のスピードの有無が明暗を分けるのは言うまでもない。

 その他で前回に比べて、学力A層・B層共に大きく正解率が低下したのは小説・問4(図3)である。


データ3

 この設問では「父親の意見」「自分の願望」の二つの内容を、本文から的確に読み取らなければならない。家族の状況や父子の考え方の相違を文章全体から読み取らせる問いで、やはり内容を大づかみにとらえる力が要求されている。また「戦法」という語句のニュアンスを正しく説明した選択肢が正解となっており、言葉に対する柔らかな感受性も必要である。


(2) 学力層別・学習習慣に見られる特徴

 学習習慣に関する調査で興味深いのは、「毎日欠かさず授業の予習または復習をする」「宿題があれば必ずする」という調査項目に対し、「非常にあてはまる」「ややあてはまる」と答えた生徒が、学力B層に比べ学力A層の方が少ない点である。「古典の口語訳(予習)」についても同じ傾向が見られる。また、「現代文では次の授業で学習する範囲を、教科書を読むなどして一通り見ておく」と答えた生徒は、学力A層の方が多く、「授業では授業を聞くよりも板書を書き写すことの方に集中している」と答えた者は逆にA層の方が少ない。

 国語の学習に関する学力A層とB層の生徒の違いは何だろうか。それは大げさに言えば「学ぶこと」についての本質的理解の差である。「考える勉強」と「覚える勉強」のどちらを「勉強」と考えているかの差と言ってもよい。学力A層の生徒は、より思考力を要する現代文的な勉強を重視し、授業では板書よりも授業者の説明に耳を傾けている(又は自分の思考に集中している)。本来国語が得意であり、理解できるという面もあるだろうが、予習をしないのは、授業中に言葉との出会いや思考を楽しむための彼らなりの手段かもしれない。高い学力を有する生徒に対して、予習しなくても理解できる程度の「食い足りない」予習課題しか課さないわれわれにも責任の一端があると言えよう。

 本当の国語力を高める上で予習・復習が欠かせないのは言うまでもない。しかし、偏差値60の壁を越えるために必要な学習態度とは、主体的に考えようとする姿勢ではないかと思われる。



(3) 学習指導の工夫

 学以上見てきたように、偏差値60の壁を越えるためには、語彙力のレベルアップ論理的思考力の伸長主体的に考える姿勢の育成が必要である。では、それぞれについて、どんな指導法が有効だろうか。

語彙力のレベルアップ
 言葉は文脈の中に置かれてこそ、その意味と使い方が理解できる。評論に頻出する語を精選して小テストを実施し、語彙力の向上を図る方法もあるが、その場合にも必ず例文を示し、文脈の中で意味を確認させたい。また、語彙力は言葉を自ら使うことで定着する。例えば、生徒自身に例文を作らせるという方法が考えられる。生徒一人一人に重要語句を書いた短冊を配り、言葉の意味や同義語・対義語などを調べさせる。そして辞書の用例ではなく、自分で考えた例文を書かせて回収し、印刷する。一人2〜3枚程度で「重要単語100」の一覧表ができることになる。授業でその意味と例文(使い方)の妥当性を確認する。その後、小テストなどで定着を図ってもよい。

論理的思考力の伸長
 学習指導要領が生徒の「意欲・関心・態度」の育成を掲げた時、グループによる調べ学習や発表形式の授業など、生徒の生き生きとした活動が見られた。生徒の主体的な授業参加があり、居眠りをする生徒は減ったように思えた。しかし、そこで論理的な思考力は身についただろうか。大学入試などの抽象度の高い文章を読み解く力はついただろうか。高度な論理的思考力を育てる授業とは、生徒の思考の深まりを保証する授業である。授業者の発問に(または生徒の発言に)教室がしんと静まり、一人一人が本文に立ち戻り考えをめぐらせるとき、その力は育つように思われる。対立する意見を生徒から引き出し、本文の表現を根拠に「読み」を深めさせる工夫が必要となる。考えるに足る発問を準備できなければ、特に学力の高い層の生徒の足は国語教室から遠のく一方であろう。

 また、論理的思考力が最も必要とされるのは、表現活動においてである。本校では「総合的な学習の時間」にワークシート(記入例を下に掲載)を用いた小論文指導を行っている。生徒は各自、「国際化」「若者論」など小論文のテーマとして頻出する10余りのテーマの中から一つを選ぶ。その後、図書室を利用して自分の主張と根拠、予想される反論とそれに対する意見をワークシートにまとめる。それを用いて800字程度の小論文を書かせている。小論文の出来よりも問題意識の深まりと思考のプロセスを大切にした学習活動であり、大変なだけに生徒の達成感も大きい。より高度な論理的思考力を養成するためには、生徒の思考に負荷をかける何らかの仕掛けが必要となるだろう。

主体的に考える姿勢の育成
 先に見たように、学力A層とB層の生徒ではその学習姿勢に違いがある。教材や与えられた課題に対して自ら主体的に考えようとする姿勢を身につけさせるには、どうしたらよいだろうか。

 私は時々、疑問カードを用いた授業を実施している。初読の後、不明な部分を要素別にカードに書かせ、それをもとに授業プリントを構成し、授業を展開する(「疑問カード」を用いた授業プリントの例を後掲)。生徒の質問が授業に生かされ、生徒の授業に向かう姿勢は主体的なものとなる。また、生徒は意外な部分につまずくことが多く、彼らにとって学習すべき事柄とは何かを再認識させられ、授業者自身が教えられることも多い。吉行淳之介の『童謡』という教材を授業で扱った際、主人公の「あし」を表現する言葉として「肢」「脚」「足」と三種類の漢字が使い分けられているのはなぜかと指摘した生徒がおり、授業は大いに盛り上がった。主人公の置かれた状況やその心情を深く理解する上で非常に参考になり、生徒ともども作者の言葉に対する真摯な姿勢と、鋭敏な言語感覚に感心させられた。

 主体的に考える姿勢を育成するには、授業や与える課題の工夫が欠かせない。「生徒の学習意欲を高め、授業に参加する場を積極的に与えること」、「生徒が取り組むに足る課題、授業に生きる課題を準備すること」、「授業者が生徒と一緒に考える場を生み出すこと」。いずれも簡単にできることではないが、目指していきたいことである。


 小論文指導における「ワークシート」/生徒の記入例
「ワークシートNo.1」=テーマの設定

データ3

 「ワークシートNo.2」=小論文の骨組み作り


データ3


データ3


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