ベネッセ教育総合研究所 高校生の学力変化と学習行動  
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第3章 各教科における学力の壁を乗り越えるための学習と指導

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第2節  偏差値60の壁を乗り越えるための学習と指導・古典


 前回と今回を比較して、学力A層とB層で層間差の広がりが特に目立つのは、次の設問であった。(図4)

 古文については、問1の(イ)を除いてほとんどの設問で層間差の広がりが見られた。問1の(ア)「つゆのゆかり」の意味や、右の問2の文法問題はいずれも基本的なものであり、特に基礎学力の有無が勝負の分かれ目になった。問3・問4などの内容読解にかかわる問題でも差は広がっており、指示内容やキーワードを読み取るなど、いわば現代文的な学力を必要とするものである。基本的な単語や文法事項、読解法の見直しが必要となる。
(出題内容は巻末掲載)



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 現・古・漢の中で最も層間差が激しかったのが、漢文である。文章のレベルがやや難しかったこともあり、問2の訓読問題を除く全ての問題においてA層とB層の正解率に20%以上の差が見られる。句法や読みなどの知識の蓄積だけでは解けない問題が並んでいることが原因である。漢文は評論と同じく論理的な読解力を要する分野と言われる。最近のセンター試験でも難化の傾向が見られ、以前のように高得点が出にくくなっているが、この問題も実力の差が如実に表れた形となった。

 

(2) 学力層別・学習習慣に見られる特徴

 特徴的なのは、学力B層の生徒が学力A層の生徒に比べ、平日に予習・復習・宿題を行い、口語訳(全訳)をして授業にのぞみ、休日も勉強しているにもかかわらず、「国語が得意である」と答えた割合が10%近くも下回っている点である(図5「非常に得意」、「やや得意」の選択率合計;A層47.7%、B層38.1%)。その原因はどこにあるのだろうか。

 一つには、単語や文法を調べること・覚えること自体が自己目的化し、何のための学習なのかを見失っている点にある。単語や文法を調べる目的は、当然古典作品を深く読み取り、味わうためである。ところが、口語訳や文法事項の確認が済んだところで、その先を考えることを止めてしまう傾向がありはしないか。

 また、読解の方法を習得できていない点も原因の一つと考えられる。完全無欠の美しいノートを作成する生徒に限って、定期テストでは好成績を収めるのに、模擬試験では結果が出ないという場合がよくある。一行目から順を追って丁寧に口語訳や訓読を行い、文法事項や句法を書き込むことに一生懸命で、いきなりまっさらな古典の原文に向かうと、どう読んでいいのか分からない。読解の方法を意識して習得するよう仕向けることが必要である。



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(3) 学習指導の工夫

 以上の点を改善するために、どのような学習指導が考えられるだろうか。
 一つには予習させるべき基本的事項を精選し、授業の中でその必要性を実感させる手立てが必要になる。私たちは1時間の授業の中で、様々なことを教えすぎる傾向がある。強く印象に残る単語や文法が一つか二つあればよしとする、そんな思いきりも大切に思える。

 例えば、『大鏡』の中で、繰り返し表れる語り手の言葉がある。「いみじ」という形容詞である。「程度がはなはだしい」「すばらしい」「ひどい」などの意味を、生徒は辞書から見つけてくるであろう。それぞれの場面で相応しい意味はどれなのか、その都度考えさせたい。そして、その言葉こそが当時の貴族の枠を越えた器量の持ち主である藤原道長への賛嘆と非難が入り混じった評価であることに気づき、道長賛美に終わらない『大鏡』の文学的特質にも通じることを知ったとき、生徒は古典の世界の奥行きの深さを知ることになるだろう。また一つの文法、一つの単語が読解に大きくかかわるものであることを実感することだろう。予習の姿勢も変わってくるに違いない。今回の古文・問4では、文中に3回出てくる「あはれなり」という語が筆者の心情を端的に表す言葉であり、その意味内容が問われている。より高い古文読解の力を身につけるには、このような問題に対応するための力が不可欠である。

 もう一つは古典読解の方法を習得させる授業を工夫したい。場合によっては思い切って予習を課さない授業があってもいいのではないかと考える。

 『十訓抄』「大江山いくのの道」を扱った際に、そのような授業を試みたことがある。


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 などの学習活動を通じて、(会話部分を除く)地の文の用言を押さえることが文章構造の把握には不可欠であり、古文読解の基本であることを理解させた。
 
 また、比較的内容をとらえやすい説話文学や随筆などを素材として、大意を把握させる簡単なプリントを授業の始めに配付し、いくつかのポイントを確認させるなどの実践を行っている先生もおり、有効な指導法であると考えられる。

「大江山いくのの道」の板書例と生徒のノート


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