授業と家庭学習のリンクが子どもの学力を伸ばす -学力向上のための基本調査2008より

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第5章 家庭学習力向上への学校・教師の取り組み−家庭学習力向上へのトータルデザイン /
5-2 自己マネジメント力が子どもの総合学力を伸ばす

2.なぜ今、自己マネジメント力なのか

では、なぜ今このような力が必要とされるようになったのだろうか。それには、次のような4つの理由がある。

一つ目の理由は、最近の学力向上をねらいとした学校教育がますます教師主導の教育に偏ってきたからである。例えば、授業時間数が少なくなったからという理由で行われる中・高等学校の土曜授業も講義式の一斉指導がほとんどであるし、小・中学校の少人数指導においてもまだ一斉指導が多いのである。これまで個性教育やゆとり教育の中で行われてきた課題別学習も、小集団による討論を中心にした授業も、仮説検証型の理科や社会科の授業もほとんど見られなくなってしまった。

この背景には、各学校が想定する学力観が教科学力の基礎的・基本的事項に限定されてしまったことがあげられるが、「教科書を教える授業」や「表面的な意見を並列的に出させて終わる授業」が復活していることは大変残念なことである。その結果、子どもたちの自ら学ぶ力がますます低下している。

もちろん新学習指導要領においては、思考力・判断力・表現力としての活用型学力やそれを育てる活用型学習が提唱されているので、今後完全実施の時期になれば各学校における教科学習も、子どもの自律性や主体性を育てる問題解決的な学習が実施されるようになることを期待したい。そのためにもまず、現時点では子どもの家庭学習力の一環としてこの自己マネジメント力を育てておくことが先決である。

子どもの自己マネジメント力は、教科学習の時間を使うのではなく、後述するように、「家庭学習向上プロジェクトに取り組もう!」とか、「家庭生活向上プロジェクトに取り組もう!」といった単元を通して、総合的な学習の時間を中心として育てることを想定しているので、現行の学習指導要領の枠の中でも十分に可能である。

また家庭における教育を担う保護者にも、子どもたちの自己マネジメント力を育てることを念頭に置いたしつけや関わりのあり方を考えて欲しい。具体的には、後半で提案することにしたい。

二つ目の理由は、このような子どもの自律性や主体性を育てる教育のあり方は、21世紀における生涯学習社会において、ますます重要になっているからである。そして、ここで提案している自己マネジメント力は、この生涯学習社会で継続的・主体的に学ぶ力としての生涯学習力と共通性が多いのである。

しかし、昭和50年代において、自己学習力や自己教育力の育成が唱えられるようになった一時期においてのみ、子どもが自らの学習を進めて行く力の明確化とその育成方法を具体化する実践研究が行われたが、それ以降は残念ながら同種の提案が、他律的な学力向上教育の陰に隠れてほとんどなくなってしまった。いずれの用語を使うにしても、子どもが自ら計画を立て、進んで学ぶ力を育てる教育の具体像を実践的に研究することは、今こそ大切である。

確かに、自己マネジメント力という概念は、これまでに提起されてきたこれら二つの教育主張との共通点が多い学力観である。事実、本報告書の第1章で提案した、子どもの家庭学習力においても、自己学習力という概念を用いて子どもの家庭における主体的な学習態度を一つの構成要素として設定しておいた。

しかし、ここで自己マネジメント力という概念をあえて用いたいのは、より根源的で自律的な態度の必要性を提案したいからである。

まず根源的という意味には、自ら学ぶ力あるいは自らを教育する力の最も基盤的な要素は、自己の学びを客観的に見つめて、常にそれをモニターし、継続的に改善していこうとするスキルや態度であるという提案を込めている。また、自律的という意味には、これまで特に自己学習力という用語で提案されてきた力が、主に学校教育の文脈の中ですでに教科書や教師によって決められた学習内容や学習活動に進んで取り組むといった限定された能力観であったことを超えて、より子どもの決定権と決定力を認め育てることを大切にしたいという提案を込めている。もちろんR−PDCAサイクルという基本型は守らなければならないが、その過程で子どもが自己決定できる学習内容や学習時間、そして学習方法に関する自由度や個別的な実態はできるだけ子どもの判断に任せたいのである。

逆にいえば、このR−PDCAサイクルという自己改善の基本型を身に付けておけば、生涯にわたってその力は、家庭からスタートして自己の学習や生活、つまり自己の人生を豊かに創造していく力になっていくと考えるからである。

子どもの自己マネジメント力を育てる三つ目の理由は、すでに第1章で指摘したように、保護者の教育力に課題がある家庭において、さらにテレビゲームやテレビ、マンガ、ケータイ等の誘惑が多い家庭環境においては、子ども自らが自己の学習と生活を厳しく律して自己改善していく能動的な力が必要だからである。言い換えれば、自己改善し、自らの学習と生活を生み出していくための克己心が必要なのである。

もちろん、ここでは過半数を超える多くの家庭で、保護者の家庭教育力が低下しているといっている訳ではない。確かに、過剰なまでに教育力を発揮する家庭が増えていることも事実であろう。少子化や経済格差による富裕層の成立により、保護者の生き甲斐を子どもの進路実績に求めようとする傾向として発生することは、今日的学歴社会の特徴である。

しかしその逆に、虐待やネグレクトまでには及ばなくとも、過酷な勤務実態のためにしっかりと子どもの家庭教育にまで心も時間もかけてやれない保護者が増えているのも事実である。また最近では、父親と子どもたちだけで生活をしている家庭も多く、そこでは基本的な生活習慣や親子のコミュニケーションも不安定な場合が少なくない。当然の結果として、そのような場合には、子どもの家庭学習の習慣はおろか忘れ物も多く、宿題をやってこないことが常態化することも多い。

そうした子どもの学習習慣と生活習慣が十分でない家庭においては、保護者への啓発活動や定期的な相談と粘り強い依頼が必要であることはいうまでもないが、現実的には、保護者にしても生活していくことで自分自身が精一杯という状況の中で、大人の教育ほど難しいものはない。

そこで、私たち総合学力研究会が提案するのは、保護者や家庭環境がどのような実態であるにせよ、子どもたちに小学校の低学年の頃から、自己マネジメント力を育てることで、そのようなネガティブな条件を払いのける強い意志と確かなスキルを身につけさせることなのである。

とはいえ、このような特色をもつ「自己改善の克己心」なる力も高度な21世紀型学力であることは間違いない。したがって、その育成や向上も決して簡単なことではない。しかし、このようなわが国の家庭教育力の低下というじわじわと攻めてくる負の圧力をはねのけるためには、子どもの自己マネジメント力を義務教育の9年間を通して育てることが最も大切であることを提起したい。

最後に四つ目の理由は、家庭の教育力を巡る社会的格差をどう解消するかという問題に関連している。「社会的格差を自ら乗り越える力」を育てることが大切であると考える。

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