東京大学共同研究「学校教育に対する保護者の意識調査2008」
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調査結果からみえること
学校教育に対する保護者の意識の変化

木村 治生(ベネッセ教育研究開発センター)



 1.はじめに 本調査の実施背景

 本調査の第1回(「学校教育に対する保護者の意識調査」2004年)は、2003年12月から2004年1月にかけて、ベネッセ教育研究開発センター(旧:ベネッセ未来教育センター)と朝日新聞社が共同で実施した。当時は、学力低下に対する不安が高まっており、「ゆとり教育」に批判的な報道が多くなされていた(1)。子どもの学習実態や学力に関する調査もいくつか発表され、それらの多くは状況の悪化や低下傾向を示していた(2)。文部科学省では、こうした動向を踏まえて2003年度から「確かな学力」の育成を目指した「学力向上アクションプラン」を実施する。さらに、学力低下への対応にとどまらず、2000年代前半はさまざまな教育改革が進められた。第1回調査の実施前後は、ちょうど教育政策の転換点にあったということができる。

 こうした政策転換は世論に影響を受けていたと考えられるが、保護者に対して学校教育への期待や評価を直接たずねた調査は、実はそれほど多くない(3)。文部科学省や自治体が政策立案の資料作成や行政評価の目的で行うことはあるが、それらは継続的な変化がとらえられなかったり、地域を限って行われたりしているものがほとんどである。また、行政が実施する場合、保護者の属性を立ち入って聞けないケースが多く、本来は政策の検討に重要な要素である「誰がそう考えているのか」ということについて深い追究ができない。

 第1回調査は、上記のような背景のなかで、学校や教育改革を誰が支持しているのか(あるいは、支持していないのか)ということを明らかにする目的で行われた。さらに、2回目の調査(「学校教育に対する保護者の意識調査2008」)は、同じ学校に協力をお願いすることで経年変化がとらえられるように設計した。学校通しによる調査であるため学校数が限られるという課題はあるが、保護者の意識を全国規模で調べ、その推移がわかるような設計の調査は、他にはないだろう。

 また、今回は新たな試みとして、調査結果をもとにベネッセコーポレーションと朝日新聞社が共催で「教育格差をどうする」と題するシンポジウムを行った。その発言録は、WEB上で公開されている(4)。加えて、詳細な分析を行うために、ベネッセ教育研究開発センターと東京大学社会科学研究所が共同研究を行った。本報告書は、そのまとめである。



 2.分析の枠組み

 本稿では、次章以降に続く詳細な分析に先立って、2004年調査と2008年調査の結果を比較しながら、この4年間で保護者の意識にどのような変化があったのかを記述する。とくに、変化の大きかった学校に対する満足度や教育費支出の状況について、子どもの学年、地域、学歴、生活のゆとり、母親の就業状況などのクロスデータを用いながら、「おもに誰が変化したのか」という点を検討したい。データの制約から、二時点ともに調査に協力した31校について、母親による回答を用いて分析を行うことにする。


(1)下表は、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞の3紙において「学力低下」をキーワードに新聞記事検索を行った結果である。表では省略したが1990年代はヒット数が20件程度であり、学力の低下はほとんど問題になっていなかった。しかし、2000年以降、学力低下を扱う記事が急増することがわかる。
「学力低下」新聞記事検索数

(2) たとえば、2000年12月に発表された国際教育到達度評価学会(IEA)による「第3回国際数学・理科教育調査第2段階調査(TIMSS-R)」や、2002年12月に報道された「平成13年度小中学校教育課程実施状況調査」など。

(3) 主な調査としては、以下のようなものがある。1)ベネッセ未来教育センター『保護者の学校選択』(モノグラフ・中学生の世界Vol.79)、2005年(調査は2004年に実施)。2)ベネッセコーポレーション『義務教育に関する意識調査・中間報告書』(平成16・17年度文部科学省委嘱調査報告書)、2005年。3)日本PTA全国協議会『平成15年度・学校教育改革についての保護者の意識調査報告書』2003年。なお、日本PTA全国協議会は、学校や教育改革に対する保護者の意識をテーマとした調査を定期的に行っている。

(4) ベネッセコーポレーションと朝日新聞社によるシンポジウムは、2008年9月27日に有楽町朝日ホールで行われた。当日の発言録は、以下のURLで公開されている。
http://www.asahi.com/shimbun/sympo/080927/index.html(2009.1.9)

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