神奈川県の公立中学校の生徒と保護者に関する調査報告書

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第1部 親子関係・子育て
第2章 学校環境、親子関係が子どもの自己否定感に与える影響

5.結論

子どもの自己否定感は、よく議論されているような学校における子ども主体の授業によって影響を受けるものではなく、むしろ教師が積極的に子どもにかかわろうとすることにより大きく軽減されるものであることがわかった。また、親子関係の充実も子どもの自己否定感を和らげる効果があり、子どもの自己否定感は自分を取り巻く大人との関係性によって軽減されるものであると考えられる。徐々に自立していく年頃とされる中学2年生においても周囲の大人の影響は非常に強く、子どもは大人から目を向けられ、受容されることによって自らの存在意義を感じ取り、自己否定感を低めうるのである。

しかし留意しなければならないのは、上記のような構図においても、大人のいかなる態度が子どもの自己否定感に影響するかは、子どもの学力階層によって異なってくるということである。学力階層を統制して分析すると、学力階層にかかわらず影響を及ぼす要素(教師が積極的に話しかけること)と、学力上位層に強い影響を及ぼす要素(親が子どもをほめること)、学力下位層に強い影響を及ぼす要素(スポーツや余暇を親子で楽しむこと)があり、学力階層によって自己否定感の規定要因が異なっていることが判明した。したがって、自尊感情に関する規定要因を一元的に解し、すべての子どもに画一的な対応策を実施するのは効果的ではないということが言える。この点につき、学力という指標を看過して行われてきた従来の授業研究や、子どもの自尊感情にまつわる議論には再考の余地がある。

ただし、本稿はあくまでも「自己否定感」を従属変数として分析した結果を述べているものであり、決して子ども主体の授業や、「親からよくほめられる」など、本稿で独立変数として使用した項目の是非そのものを論じているわけではない。本分析は、子どもの自己否定感の規定要因にまつわる一側面を扱ったものであり、この結果のみによって教育実践を決定することは、必ずしも適切ではない。なぜなら、本稿の結論のみで子どもの自己否定感を軽減しようとした場合、学力下位層の親は子どもとスポーツや娯楽の時間の共有を図ることとなるが、そのことによって子どもがますます勉強から離れ、学力格差の拡大へとつながる恐れがあるからである。このような「意図せざる結果」には十分注意が払われなければならないだろう。

上記のような留意点はあるが、本稿の分析の結果、学力階層によって自己否定感の規定要因に違いが存在することが明らかとなった。本稿の指摘が、学校現場や家庭における、子どもの自己否定感へのより実効的な対応につながれば幸いである。

引用文献

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