神奈川県の公立中学校の生徒と保護者に関する調査報告書

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第1部 親子関係・子育て

 第5章 母親の子育て成功感を規定する要因
       ―階層格差はあるのだろうか―

邵 勤風(Benesse 教育研究開発センター教育調査課長)

  <要約>
  • 母親の子育てのあり方や、子どもの学力、子どもからみた親子の会話の量は文化階層によって異なる。
  • 文化階層が高いほど、母親の子育て成功感が高い。
  • 母親の過去の子育て行為やしつけや子どもの教育方針、今の子育て行為、また親子の会話の量の頻度が母親の子育て成功感に及ぼす影響をクロス集計により検討したところ、階層によらず、ほぼ同様な傾向がみられた。
  • 母親の子育て成功感を規定する要因についてロジスティック回帰分析を行った結果からは、階層による差がみられた。特に上位層と中位層では子どもの学力が規定要因になっているのに対し、下位層では子どもの学力が規定要因から外れている。ただし、本の読み聞かせは規定要因になっている。階層格差の固定化の可能性があること、母親は子どもの学業での成功からおりることで自己の子育てを高めるようにしている可能性がある。

1.問題設定

近年、子育てや家庭教育に関する調査研究では、次のことを明らかにしてきた。家庭の教育力やしつけは衰退しているのではなく、むしろ高くなり、全方位型の母親が増えていること(広田1999)。子育てのあり方について、「のびのび」した子育て、「きっちり」した子育てがある。親の学歴や家庭の経済階層が高いほど、「のびのび」した子育てにも、「きっちり」した子育てにも力を入れる。そして社会階層が高い母親ほど「きっちり」した子育てに力を入れる傾向が顕著であり、またその後の子どもの学業達成に影響を及ぼしている。子育てのあり方を規定する要因は母親の社会階層である(本田2008)。母親が子どもの教育に対して抱く関心が高まり、子どもへの関与が強まっている。一方では、子育てを通して自分も成長したと実感する機会が減っている(ベネッセ教育研究開発センター2007)。さらにこの調査からは、大卒の母親も非大卒の母親も、同様な傾向がみられた。

これらの研究が示すように、社会階層によって、子育てのあり方が違ってくるが、子育てをしてよかったといった気持ちの面、子育ての充実感、成功感は、社会階層による違いはあるのだろうか。もし子育て成功感も社会階層による違いがあるのなら、それぞれの階層において子育て成功感を規定する要因とは何だろうか。

子育てには正解はない。また客観的というより、母親自身が子育てをどうとらえているのか、どう受け止めているのか、また子育ての充実感や成功感を得られるかどうかが重要であると考えている。母親たちは何をもって子育てに成功していると感じているのか、本研究を通して、少しでも明らかにできたらと願っている。

本稿では、①社会階層によって、子育てのあり方に違いがあるのかを本調査を通して検証する。②社会階層によって、子育て成功感に違いがあるのかを明らかにする。③社会階層による子育て成功感の規定要因が異なるのかを明らかにする。

2.仮説

上述した明らかにしたいことから、次の仮説を立てる。

仮説1:母親の子育てのあり方については、文化階層の上位層ほど、「本の読み聞かせをする」「勉強以外に様々な体験をさせた」比率が高く、また親子の会話の量が多く、子どもの学力が高い傾向である一方、どの階層でもよく行う子育て行為や子どもの食事の世話などでは、文化階層による差はない。

仮説2:文化階層が高いほど、母親の子育て成功感が高い。

仮説3:文化階層によらず、過去や現在の子育て行為や子どもからみた親子の会話の量などの頻度が母親の子育て成功感に影響を与える。

仮説4:文化階層によって、子育て成功感を規定する要因は異なる。上位層では、よく行う子育て行為も子どもの学業も規定要因になるが、文化階層の低い母親はよく行う子育て行為だけが規定要因になる。

3.使用する変数

父親と母親では子育てに対する意識や行為などが異なる可能性があるため、本稿では保護者票については母親票のみ分析する。

従属変数
HQ21B「子育てにある程度成功している」について、「とてもあてはまる」「まああてはまる」を「子育てに成功している群」、「あまりあてはまらない」「まったくあてはまらない」を「子育てに成功していない群」と、2群の変数を設定。さらに「高群」= 1、「低群」= 0としたダミー変数を設定。

使用する主な独立変数
1.HQ13A「本の読み聞かせをする」、HQ13D「美術館や博物館に行く」について、「ひんぱんにした」「ときどきした」を「高群」、「あまりしなかった」「ほとんどしなかった」を「低群」と、2群の変数を設定。さらに、「高群」= 1、「低群」= 0としたダミー変数を設定。

2.HQ15C「勉強以外に様々な体験をさせた」、HQ15D「子どもを尊重・応援した」については「1.」と同様な手続きを採用。

3.HQ16B「子どもに小言を言う」、HQ16E「子どもとスポーツを楽しむ」については「1.」と同様な手続きを採用。HQ16C「子どもをほめる」は「よくある」を「高群」、「ときどきある」を「中群」、「あまりない」「まったくない」を「低群」と、3群の変数を設定。さらに、「高群」= 1、「低群」= 0とした高群ダミー変数、「高群」= 0、「低群」= 1とした低群ダミー変数を設定。

4.Q44A〜G(親子の会話の量)のすべての項目について、「よく話す」から「ほとんど話さない」までの4段階を4点から1点まで得点化し、総得点を算出したうえ、16点まで(全体の55.4%)を「高群」、17点以上(全体の44.6%)を「低群」と、2群の変数を設定。さらに、「高群」= 1、「低群」= 0としたダミー変数を設定。

5.HQ11A〜E(子育ての悩み)のすべての項目について、「とても気になる」から「まったく気にならない」までの4段階を4点から1点まで得点化し、総得点を算出したうえ、11点まで(全体の60.0%)を「高群」、12点以上(全体の40.0%)を「低群」と、2群の変数を設定。さらに、「高群」=1、「低群」= 0としたダミー変数を設定。

6.HQ18(子育ての分担)について、「ほとんど母親が行っている」と「それ以外」の2群の変数を設定。「子育てはほとんど母親が行っている」= 1、「それ以外」= 0としたダミー変数を設定。

7.子どもの学力:生徒票Q09への回答数を簡易学力スコアとして用いる。

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