神奈川県の公立中学校の生徒と保護者に関する調査報告書

    PAGE 1/19 次ページ

第2部 学力・学習習慣

 第1章 親に言われなくても勉強する子
       ―「自律学習」の効用と規定要因―

岡部 悟志(Benesse 教育研究開発センター研究員)

  <要約>
  • 意識レベルの学習意欲と見なせる「勉強積極性」、行動レベルの学習意欲と見なせる「平日家庭学習時間」はいずれも子どもの出身階層に規定されるが、それらを親が言わなくてもできる(自律学習ができる)かどうかは、出身階層に左右されないし子ども本人の過去の学業成績とも関連しない。
  • 学習意欲が同水準だったとしても、自律学習ができる子はそうでない子と比べて現在の学業成績が高い。その背景には、勉強に対する積極性や学習時間の水準に還元されない、学びに対する志向性の差があると考えられる。
  • そのような観点から自律学習の規定要因を探ったところ、理解動機に基づく学習(わかること自体おもしろいから勉強する)や、拡張的能力観を背景とする学習目標(その場その場でできることをコツコツやっていきたい)などが自律学習を促進する。
  • 中学入学前までに親が「しっかり勉強するように言っていた」ことは意識レベル・行動レベルの自律学習を減退させること、「子どものやりたいことを尊重し援助・応援」は意識レベルの自律学習を促進させる効果があることから、子ども自身が自律性を発揮できるような機会を生み出す中学入学前までの子育ての積み重ねが、中学以降の自律学習へとつながる可能性がある。

1. 問題関心

みずから課題に取り組み、試行錯誤を経て解を導き、結果を受けて軌道修正する一連の行動様式を獲得することは、子どもが大人になる過程の中で、実社会から要請される重要なタスクの1つである。とりわけ、子どもから大人への移行期にあたる青年期半ばにさしかかった中学生とその保護者にとって、学校生活や卒業後の進路選択などの比較的時期の迫った課題の範囲を超えて、彼/彼女らの活動のフィールドが高校や大学生活、職場生活や新たな家族形成へと広がっていくことを見据えたときに、ますます重要性を帯びてくる観点といえる。このような問題関心に基づき、本稿では、中学生とその保護者を対象とした調査から得られた親子ペア・データ(母親が回答した2,198サンプル)を用いて、自律的な学習スタイルを獲得していることの条件の1つと考えられる「親に言われなくても勉強する子」を「自律学習ができる子」として定義・抽出※1)し、その特徴を明らかにしていく。

〈注〉
※1 本稿における自律学習の定義は「4.変数の設定」のBを参照されたい。なお、親が子どもに対して「もっとがんばれ」と言っているか否かと他の設問への回答の関係を調べてみると、「もっとがんばれ」と言わない親ほど「子どもの勉強を手伝う」比率、「子どもが学校で勉強している内容」や「子どものテストの点数」を確認する比率が低いこと、子どもの「学習習慣が身についていない」といった悩みが少ないなどの傾向がある。したがって、日頃親が「もっとがんばれ」と言っているか否かで、子ども本人が学習に対して自律的か否かを判定しても差し支えない。

     PAGE 1/19 次ページ
目次へもどる 調査・研究データ