「データで考える子どもの世界」

神奈川県の公立中学校の生徒と保護者に関する調査報告書

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第3部 社会関係資本
第1章 中学生の対人能力に影響を与えるもの

3.仮説

以下、仮説について説明する。

理論仮説1:保護者とコミュニケーションをとっている生徒ほど、意思伝達力が高い。
作業仮説1:保護者とのコミュニケーション得点が高い生徒ほど、自分の考えをはっきり相手に伝えることができる。

理論仮説2:保護者とコミュニケーションをとっている生徒ほど、協調性が高い。
作業仮説2:保護者とのコミュニケーション得点が高い生徒ほど、嫌いな人、苦手な人ともうまくつきあえている。

理論仮説1・2では、保護者とのコミュニケーション量が多いことが、子どもの友人関係における対人能力を高めることについて確認する。保護者と会話するなかで、はっきりと自分の気持ちや考えを相手に伝える力が身につくと考えられることが理論仮説1の根拠である。また、保護者と会話をすることを通して、人と双方向に意思の疎通を図ることができるようになり、人とうまくコミュニケーションをとるための基盤も作られると考えられる。したがって協調性が高まるというのが、理論仮説2の根拠である。

理論仮説3:議論発表型授業を受けている生徒ほど、意思伝達力が高い。
作業仮説3:議論をしたり意見を発表しあったりする授業を受けている生徒ほど、自分の考えをはっきり相手に伝えることができる。

理論仮説4:議論発表型授業を受けていても、協調性には影響がない。
作業仮説4:議論をしたり意見を発表しあったりする授業を受けている生徒ほど、嫌いな人、苦手な人ともうまくつきあえているとはいえない。

次に、授業形式が対人能力に与える影響について考えたい。子どもたちの対人能力を高めうる授業形式として、本稿では議論をしたり意見を発表しあったりする議論発表型の授業と、グループで協力して調べたり課題を達成したりするグループ協力型の授業について取り上げる。

理論仮説3・4は、議論発表型の授業が対人能力に与える影響についての仮説である。議論発表型の授業を受けることによって、自分の考えを伝達する機会が増え、意思伝達力が増すと考えられる。一方、嫌いな人や苦手な人ともうまくつきあえる協調性は、相互作用や相互理解を必要とする点で、意思伝達力と比較した場合、より相手の意見に対して受容的になる必要がある対人能力であると言えるだろう。議論や発表を行う授業では、自分から他者へ何かを伝えるという、一方通行に近い意思伝達力は身についても、協調性のような対人能力を高める効果は期待できないと考えられる。

理論仮説5:グループ協力型授業を受けている生徒ほど、意思伝達力が高い。
作業仮説5:グループで協力して調べたり課題を達成したりする授業を受けている生徒ほど、自分の考えをはっきり相手に伝えることができる。

理論仮説6:グループ協力型授業を受けている生徒ほど、協調性が高い。
作業仮説6:グループで協力して調べたり課題を達成したりする授業を受けている生徒ほど、嫌いな人、苦手な人ともうまくつきあえている。

理論仮説5・6は、グループ協力型の授業が対人能力に与える影響についての仮説である。グループ協力型の授業において、グループワークを円滑に行うためには、各自が自分の意見を言ったり、気持ちを表明したりする必要がある。このため、意思伝達力が高まると考えられる。また、グループで課題に取り組む際には、自分の意見を言うだけでなく、他の生徒の意見をきちんと聞いたうえで、グループとしての方針を決定していくことが不可欠である。グループワークを通して、傾聴力を含めたコミュニケーション能力が形成され、生徒の協調性が高まると予想される。

理論仮説7:特に保護者とコミュニケーションをとっていない生徒において、議論発表型授業を受けている生徒ほど、意思伝達力が高い。
作業仮説7:特に保護者とのコミュニケーション得点が低い層において、議論をしたり意見を発表しあったりする授業を受けている生徒ほど、自分の考えをはっきり相手に伝えることができる。

理論仮説8:特に保護者とコミュニケーションをとっていない生徒において、グループ協力型授業を受けている生徒ほど、意思伝達力が高い。
作業仮説8:特に保護者とのコミュニケーション得点が低い層において、グループで協力して調べたり課題を達成したりする授業を受けている生徒ほど、自分の考えをはっきり相手に伝えることができる。

理論仮説9:特に保護者とコミュニケーションをとっていない生徒において、グループ協力型授業を受けている生徒ほど、協調性が高い。
作業仮説9:特に保護者とのコミュニケーション得点が低い層において、グループで協力して調べたり課題を達成したりする授業を受けている生徒ほど、嫌いな人、苦手な人ともうまくつきあえている。

理論仮説7〜 9は、対人能力に影響を与えている、保護者とのコミュニケーションと、授業形式という2つの要因の関係性についての仮説である。議論発表型やグループ協力型という授業形式は、保護者とのコミュニケーションが日常的に少ないために、対人能力が低い生徒層に対しては、対人能力を高める効果を持っていると考えられる。しかし、授業形式は、学校において対人能力に影響を与えうる1つの要因に過ぎない。日常的に保護者と多くコミュニケーションをとって、基本的な対人能力を身につけている生徒たちにとって、さらに対人能力を高めるほどの効果を授業形式に期待することはできないと予想される。したがって、保護者とのコミュニケーション量が少ない生徒においてのみ、授業形式が対人能力を高める傾向が出ると予想される。

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