神奈川県の公立中学校の生徒と保護者に関する調査報告書

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第3部 社会関係資本

 第2章 部活動が与える自己効力感への影響
      ―達成場面と人間関係に着目して―

横井 彩奈(東京大学教育学部)

  <要約>
  • 本稿では、学校生活の中で部活動に焦点を当て、部活動形態や取り組み方によって自己効力感がどのように影響するかを検証する。
  • 部活動において、達成場面の多さは自己効力感に影響を与えている。達成場面が少ない生徒は、自分の能力に対して自信が持てず、自己効力感は低い。
  • 達成場面の少なさによって自信を持てずにいる生徒は、先輩・後輩や顧問の先生といった異年齢の人間関係によって自己効力感を補完することができる。
  • だが、文化部においては一概に結論づけることはできず、その活動内容の質的差から、より細かく分類した分析が必要だといえる。

1. 問題設定

本稿の目的は、部活動の取り組み方が自己効力感(自分の能力に対する自信の程度)に与える影響を明らかにすることである。部活動は、スポーツや文化活動など、学校教科を超えた、生徒の興味・関心を主題とした活動であり、多くの中学生にとって学校生活にとどまらず日常生活においても大きな位置を占めている。また、異年齢集団を形成したり、教師による指導を受けたりする、多様な特徴や幅広いつながりを持つ活動の場である。そこでの達成感や人間関係による影響を受けて、どのように自己効力感が変化するかを分析する。

近年、青少年の自信のなさ、自己効力感の低さが問題視されている。自己効力感とは、心理学者のAlbert Banduraによって提唱された心理学用語で、自己に対する信頼感や有能感のことである。心理学では、意欲ややる気を「動機づけ」と名づけて研究が進められているが、教育にかかわる動機づけに関する研究のうち、自己効力感に関する研究が増大している※1)(金子・守2001)。自己効力感は、学習領域との関連で調べたものが最も多く、保健や健康についての教育と自己効力感との関連を調べたものや、職業選択や進路選択との関連を調べたものもあり、この他にも多様な分野において中学生を対象とした自己効力感研究が行われている。これらの研究により、自己効力感を向上させるために有効な具体的活動としては、進路に関するキャリア教育や社会学習体験、その他にも生徒のよい成果を紹介することで意欲を高めるといった工夫のされた授業スタイルが挙げられている。これらの例から、教育課程外の活動ではあるが、中学生の生活の大きな部分を占める部活動の取り組みによって、自己効力感を向上させることができるのではないかと考えられる。それでは、どういった環境で、どういった要因によって、自己効力感は向上するのか。また、自己効力感が低い状況でも、それを打破するような働きがあるのか。本稿ではこれらの点について検証する。

2.先行研究の検討

実際の中学生の部活動加入率の現状について、西島らによる2001年3月に行われた、1都6県の中学校2年生を対象とした調査では、全体では部活動への加入率は87.8%である。学校によっては全生徒に部活動への加入を義務づけているが、それでも加入率が100%でない場合もある。また、同調査で部活動にどのくらい力を入れているかを尋ねたところ、「かなり力を入れている」が39.4%、「まあ力を入れている」が39.7%で、ほぼ8割が部活動に積極的にかかわっていることがわかった。さらに、神奈川県教育委員会教育局保健体育課(2009)によると、中学校体育連盟の平成20年度調査では、神奈川県内では公立中学校生徒約19万9千人に対し、64.3%にあたる約12万8千人が運動部に入部しており、その性別による内訳は、男子では75.4%、女子では52.2%であった。

自己効力感についての先行研究は多いが、それと部活動を結びつけたものはあまり見当たらない。その中で、西島(2006)は学校の諸場面に対するコミットメントと生徒の自己評価との間には有意な関係がみられ、学業成績とは独立して、コミットメントする場面が多くなるほど自己評価も高くなる傾向がある、と指摘している。だがそれは必ずしも部活動だけによる効能ではなく、またその自己評価については学業成績に関するものである。他にも、授業に対する意識や態度と部活動の経験などの関連で、部活動の経験があるほうが授業に対して積極的に取り組む(高旗ほか1996)ことや、学校生活の意識や態度と部活動の経験との関連で、運動部加入者は、積極性、自己表現、学校への満足度などが高いことがわかっている(吉村・坂西1994)。

このように、学校適応と部活動の関係についてはいくつかの研究が見られ、学年を超えクラスを超えて、積極的かつ自由に参加を希望する生徒によって構成される部活動は、通常の教育課程での活動では得難い、幅広く深い対人関係や集団活動経験を積む重要な機会となり、生徒の人格形成や適応感育成においてその教育効果が期待できるといわれている(高野・橘川2008)。また、運動部において、ライフスキルの獲得に関しては、レギュラー生徒のほうが非レギュラー生徒よりもライフスキルの得点が高いことなども研究されている(井伊2007)が、今後の部活動の在り方や中学生の人間関係の方向性については検討の必要性があり、また、部活動の種類や部活動内での人間関係を分類したものは見当たらなかった。

〈注〉
※1 今回のデータで分析すると、学校の勉強を積極的にする、学校が楽しい、学校生活に満足している、日常生活
が充実している、といった変数と自己効力感に相関がみられた。

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