第2回子ども生活実態基本調査報告書
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序 章

巻頭言 本調査から見えてきたこと   武内 清

本調査の意義

 ベネッセ教育研究開発センターでは、さまざまな子ども、青少年調査を実施しているが、それらの中でも本調査(「子ども生活実態基本調査」)は大規模かつ経年比較が可能な調査である。対象は、小学4年生から高校2年生まで8学年にわたり、各学年1,000人以上から回答を得ている。現代の子どもたちの生活や意識が小学生から高校生まで、発達段階(学年)ごとにどのように変化しているかがデータで確かめられる。
 サンプリングの方法は、純粋なランダムサンプリングではないが、回答に偏りが生じないように、市区町村の人口密度と人口規模を考慮し、また高校は入学難易度を考慮し、対象の学校を選び、そこの児童・生徒を調査対象にしている。5年前に調査を依頼した学校に、今回も調査を依頼し(無理な場合は近隣地区の学校に依頼。高校は同じ入学難易度の学校に依頼)、約9割が前回と同じ学校での調査となっている。このようにして、全体で、13,797名の回答が得られている。5年前(2004年)の回答数が14,841名であるのでほぼ同数である。この5年間の子どもたちの生活の変化をほぼ正確にデータで確認することができる。
 子どもや青少年を対象にした調査は、文部科学省をはじめとして、各都道府県市区町村、大学、民間団体が行っているが、対象年齢を限定したり、単年度調査にとどまったりしているものがほとんどである。本調査のように、8学年(小学4年生〜高校2年生)にわたり、しかも時系列で比較できるデータは少なく、貴重なものとなっている(過去に東京都の「子ども基本調査」があり3年ごとに8回の調査が行われていたが、平成10年に終了している)。
 調査内容は、子どもたちの日ごろの生活時間から学習の様子、塾・習い事、部活動、親子関係、友だち関係、メディア接触、将来展望、自己像など、子どもの生活全般の様子がわかるようになっている。また性別や成績、親の学歴などの属性に関する質問も行っており、多様な子どもの差異も把握できるように調査設計がなされている。さらに今回の調査では合わせてグループインタビューも実施しており、現在の子どもたちの生きた「声」を汲み取りながら、よりリアリティのあるデータの解釈、考察が可能なように工夫されている。。

この5年間で子どもの変化に影響を与えた社会的要因

 今回の調査では、いくつかの点で、子どもたちの生活と意識に、5年前と比べて大きな変化が生じている。
 その社会的な背景は、次のようなものである。第1に、この5年間で加速した経済不況があげられる。第1回調査が行われた2004年は、2002年をピークとする景気の回復に陰りが見えはじめた時期であったが、2009年秋に行われた第2回調査の時は、2008年のリーマン・ブラザーズの破綻が契機になった世界的な不況の大きなショックが日本社会全体を覆っている時期で、親や子どもたちの生活、意識にも影響を与えている。
 第2に、経済不況のなかで親たちは生活防衛に走り、仕事より家庭中心、親子中心の生活をし始めたことがみてとれる。家庭での食生活がしっかりしてきたことや親子の会話の増加などがそれである。
 第3に、学力低下論争、PISAショックなどにともなう国の教育政策の転換、つまり、ゆとり教育重視から学力重視への転換が、子どもたちの勉強への意識を変えていることがうかがえる。勉強時間の減少に歯止めがかかっている。また「早寝早起き朝ごはん」運動の影響もあるのか、規則正しい生活を送る子どもが増えている。
 第4に、 経済不況のなか、学校教育においても、キャリア教育や職業指導の充実を図るような取り組みが増えており、その指導や教育が子どもたちの職業観に影響を与えている。
 このように、経済的不況、親の生活態度の変化(家庭・親子中心へ)、国の教育改革動向(学力重視、「早寝早起き朝ごはん」運動)、そして教育指導の変化(キャリア教育重視)などが、今の子どもの変化に影響を与えた社会的要因として考えられる。 

職業を決めていない子ども、成功や国際的な活躍を望まない子どもが増加

 2004年と比べて2009年は、なりたい職業が「ある」と回答した子どもが減少している。とくに高校生において減少幅が大きい(小学生63.4%→58.1%、中学生62.0%→54.2%、高校生66.8%→50.6%)。
 小学生より高校生で減少していること、また女子より男子で減少が大きいこと、進学校より進路多様校で減少が著しいことを考慮すると、職業選択が以前より子どもたちにとって現実的な問題になってきていると推察される。現在の経済不況が、子どもたちに夢ばかり追わず、堅実に将来の職業のことを考えさせる姿勢を生じさせているのではないか。
 大学進学希望が増加している点も、なりたい職業が「ある」の減少に影響を与えている可能性が大きい。職業選択の先延ばしが、なりたい職業が「ない」を増やすことになる。また、進路多様校に通う高校生にとっては、自分のやりたいことにこだわるより、就ける職業を選ぶという現実的な選択が増えている。子どもたちは状況に応じて進学や就職に柔軟に対応する将来展望を抱くようになっているのであろう。職業調べやインターンシップなど体験を通したキャリア教育が、夢より現実志向を強める方向に働き、将来の職業をかえって決めにくくさせているのかもしれないが、よりリアリティをもって自分の職業を選択していくプロセスとしてはよい傾向ともいえるであろう。
 「40歳くらいになったとき、どのようなことをしているか」という質問に対しては、「親を大切にしている」「幸せになっている」「子どもを育てている」「自由にのんびり暮らしている」が6割から8割とどの年齢層(学年)でも多く、「有名になっている」や「世界で活躍している」は2割以下と少なくなっている。現代の子どもたちは、身近なところで幸せを求めているともいえるし、高い達成意欲は抱かず、内向きになっているとも解釈できる。
 現在の青少年には安定志向やエコ(省エネ)志向が強まっている。ハイリスク・ハイリターンの生活より、ほどほどの豊かさや安定を求めている。リスクを冒して失敗すれば、負け組になり、這いあがれないという恐怖心は強い。自分のやりたいことにこだわるより、安定を求めて現実的に考えるという方向に向かっている。今の日本はある程度豊かな社会になっているので、その生活に満足している。
 無理をしない、冒険をしない、ほどほどで満足する志向は、穏やかな人間性をつくるというよい面がある。一方、社会的な成功や国際的な活躍を望む意欲を持たない子どもが増えているということは、今アジアの青少年がきわめて意欲的ななかで、日本がこれからの国際競争を勝ち抜いていけるのかどうかという心配も生じさせている。 

男の子たちの変化

 「仲間はずれにされないように話を合わせる」男子や、「グループの仲間同士で固まっていたい」を肯定する男子の割合が増えたことも、今回の調査でみられた特徴的な結果の1つである。
 友だちへの気遣い方や、仲間うちで固まる傾向などは、男の子の友人関係のあり方が女の子に近づいているとも解釈できる。一方、ゲームをする女の子が増加しており、女の子も男の子の生活態度に接近している。家庭、学校、職場における男女平等の社会的風潮が浸透しているので、男の子と女の子の生活や意識に接近がみられるのは、当然のこととも考えられる。
 男女平等が進む一方で、男子には稼いで一家を支えるべきという規範も根強くあり、男子の生きづらさがうかがわれる。このようななかで、男子はリスクのある冒険ができず、慎重、内向きになっているとも解釈できる。いずれにしろ、女の子の元気さに押され気味の男の子たちの姿が浮き彫りになっている。

社会的格差と子ども、求められる施策、実践

 子どもたちが一様に内向きで穏やかで現状に満足する傾向が強まっているなかで、子どもたちのなかの格差も進行している現実にも、注意する必要がある。
 第1に、学年(年齢)の進行とともに広がる格差である。それが個性の多様化という意味での差異であればいいが、一元的な価値の縦の格差であれば問題である。たとえば、家での勉強時間が学年の進行とともに、長時間勉強する子どもとまったく勉強しない子どもに二分されるような傾向がみられるが(第3章第1節)、これは改善されねばならない。勉強時間の多寡が将来の社会的な地位に結びつく現状のなかで、勉強から遠ざけられている子どもへの配慮が必要であろう。
 第2に、親の学歴や経済的な地位によって、子どもへの教育に格差が生じるのは問題である。塾通い、私立中学受験、大学までの進学期待などに、親の学歴や地位が反映しているデータが得られている(第3章第1節第2節)。高い階層が子どもの教育に熱心になることはとがめられることではないが、そうでない階層の子どもにも、高い教育を受け、将来への野心を高く持てるような教育や社会の仕組みをきめ細かく作っていく必要がある。メディアの利用に関しても階層格差があることがデータで得られているが(第2章第2節)、子どもの成長や教育にかかわるさまざまな分野での平等がはかられ、すべての子どもの能力を伸ばしていく必要がある。
 
 今の経済不況、そして社会全体が元気をなくしているなかで、次の世代を担う子どもたちの教育がきわめて重要になっている。どのような教育がこれからの社会と子どもにとって必要なのか。
 現代の子どもの生活と意識の現状、またそれを規定している教育的、社会的要因を的確に把握し、施策や実践を実行していくことが今求められている。
 それらに対する示唆的なデータや考察が、本報告には満載されている。活用をお願いしたい。
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