高校受験調査

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臨床心理学の観点から

受験期は"友だち親子"が試されるとき
―イライラの増幅を乗り越えて

目白大学/KIDSカウンセリング・システム 黒沢 幸子

  今回の調査対象である高校受験期は、将来に向けてその進路の岐路に立たされる時期である。思春期の後半にさしかかり、思春期前半に生じた第二次性徴による身体の変化をほぼ通過し、より内面的な自己を模索する時期になっている。しかし、まだ現実性や社会性に乏しいため、子どもは一人前にやっているようでも不安を抱いており、親から見れば認識の甘さや頼りなさが目立つ時期でもある。
 今回の調査から、この時期の親子関係の特徴と意義を探ってみたい。まず、保護者は、受験する高校について、学校や塾の先生に相談するなど、高校に関する情報を積極的に収集して、受験校を子どもと一緒に考えようとし、子どもも受験校選びに保護者の話をもっとも参考にしており、保護者を情報源として頼っていることがうかがえる。志望校決定では、親は自分の意志の主張を抑えてでも、子どもの意志を尊重するように努めている。母親は、テストの点数を確認したり、体調管理に気を配ったりして、勉強面、身体面をよくケアするだけでなく、子どもの適度な息抜きや、子どものスランプへのサポートを心がけ、合格した後のごほうびの約束までもしている。ここからは、子どもの受験ストレスやモティベーションの維持にも細やかに気を配り、子どもの心理面のコントロールに大きく関与する母親の姿がうかがえる。
 これらの傾向は、別の調査結果(Benesse 教育研究開発センター「第2 回子ども生活実態基本調査」2009 年実施)から見出された、"友だち親子"という昨今の親子関係の特徴とも重なるようである。友だち親子では、親子は思春期になってもよく会話をし、親は子どもの嫌がるようなかかわりはせず、肯定的で支持的なかかわりを多く行っている。しかし、一方で、親子の境界線が薄れ(ボーダレス化)、親子の"共揺れ現象" も生じやすくなり、子どもの自立や主体性を阻害する可能性も示唆されている。
 高校受験も、子どものことではあるが、親は我がこととして動いてしまっている側面もあるかもしれない。その場合、子どもが思い通りにいかないと、親のほうがイライラし、口出しが増えるということにもなるであろう。

子どもの受験の悩み、よかったこと(母親の否定的関与別)

注1) 「とてもあてはまる」+「まああてはまる」の%。
注2) 母親の否定的関与については、「子どもに口出ししすぎてしまった」「自分の焦りや不安を子どもに伝えてしまった」「友だちや きょうだいと比較して、子どもに嫌な思いをさせてしまった」の3項目で「とてもそう」「まあそう」を選んだ個数によって、「少な い」〜「多い」に分類した。

 受験期を振り返って、子どもに口出ししすぎた、自分の焦りや不安を子どもに伝えてしまった、友だちやきょうだいと比較して子どもに嫌な思いをさせてしまったと答えている母親は少なくない。このような悩みは、母親にとって特に息子に対してより多く感じるようである。思春期は "甘えと反抗" の両価性に揺れる時期であり、男の子は、女の子よりも思春期が遅延するとされている。母親にとって異性である男の子の受験期への対応は、より悩み多い傾向がうかがえる。
 母親からの子どもへのこれらの否定的関与が多いほど、子どものイライラや家族への反抗的な態度が多くなっており、反対に、これらの否定的関与が少ない方が、受験期を経て自分が強くなったという子どもが多くなる傾向にある(表1参照)。図表は省略するが、親が「勉強しなさい」と言うよりも、息抜きやスランプのサポートを心がけるほうが、受験を経て子ども自身が強くなったと答える傾向が高い。また、受験期に「親や先生から勉強するよう言われたから」勉強したという子どもは、高校になって勉強する気持ちがわかない傾向が高くなっている。
 不本意入学だった場合、その受験期は親子ともにストレスが確かに高いが、高校進学後に、将来をしっかり見据えている姿は第一志望入学者と変わらないことがうかがえる。
 以上のことからも、高校受験の経験は、目先のことだけでなく、子どもの成長の長いスパンの一コマととらえ、焦らず、親子ともに自立や主体性を獲得していくための貴重な機会とできるようにしていきたい。

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