１．はじめに

本章では、家庭での環境・生活（家庭の社会階層や文化環境、親の子どもに対する接し方や親の行動、家庭での子どもの生活習慣・時間の過ごし方などもすべて含む）と子どもの学力の関係について調査結果に基づき、検討することにする。

家庭環境と子どもの学力が関係していることは、これまでも多くの研究が指摘してきた。また、家庭の社会経済的背景と子どもの学力との間に密接な関係があることも、近年の国際学力調査の分析などからも、もはや国際的な常識といってよい。かつて、先進国では学力に対する家庭的背景の影響が強いのに対し、開発途上国では学校要因が学力に強く影響していると論じられたこともあった（Heyneman&Loxley1983）が、近年の研究では開発途上国における家庭背景の影響力も決して弱くはないことが実証されている（Nonoyama-Tarumi2008）。

そこで、問題とされなければならないのは、家庭環境のどのような側面が、学力に影響しているのか、その詳細を分析することである。今回の調査では、家庭での子どもの生活や親の行動について、かなり詳しく調査している。また、一般的に日本では親の学歴・職業や世帯収入といった階層データをダイレクトにたずねることは困難であり、これまでは代理指標が用いられることが多かった。しかし、今回の調査では階層データが明確に得られている。そのため、階層→家庭環境や生活→学力の関係をより明確に分析することができる。