教育格差の発生・解消に関する調査研究報告書

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分析編/第3章 階層差を克服する学校効果

4.「効果のある学校」と「効果のない学校」

ここでは、表3−2の「学校背景3」の学校に注目してみる。「学校背景3」の学校とは、「収入500万円未満」「母親の学歴が非大卒」で、「塾に通っていない」子どもたちの比率が相対的に多い学校のことである。関西での筆者らの調査によれば、こうしたタイプの学校において、最も学校の取り組みの影響が子どもたちの学力の状況に出やすいことがわかっている。つまり、こうしたタイプの学校では、学校での学習が子どもたちの学力状況に結びつく度合いが相対的に高いと考えられるのである(逆に言うなら、「学校背景1」の学校では、家庭教育や塾などの学校外教育の比重が相対的に大きいと言いうる)。

表3−2にあるように、「学校背景3」の学校13校中、5校が「効果のある学校」、残りの8校が「効果のない学校」と判定された。すなわち、学校の取り組みの成果として「学力の下支え」という効果が見出された5校が浮かび上がってきたのである。それをキーに、子ども対象のアンケート項目をクロスしてみた。有意差があると判断される項目を一覧表にしたものが、次の表3−3である。表から読み取れる事柄を整理してみよう。

表3−3:効果のある学校とない学校との比較

第一に、最も多くの項目に関連が見られたのが、表上段の「家庭学習」にかかわる設問であった。まず、設問4の「家で勉強する時間」について言うと、「効果のない学校」で「ほとんどしない」か「30分くらい」しかしない子どもたちの比率が高くなっている。逆に設問5では、「勉強の内容を自分なりにわかりやすくノートにまとめる」「苦手な教科もわかるまで勉強する」などを代表に、押しなべて「効果のある学校」の子どもたちの数値の出方がよりのぞましいものとなっている。明らかに「効果のある学校」に在籍する子どもたちの家庭学習習慣が、より積極的なものとなっているのである。

第二に、それに連動するように、「家庭生活」に関しても、「効果のある学校」の子どもたちのほうが、「本を読む」とか、「勉強する時間を自分で決めて実行している」といった項目について、よりよい結果となっている。

そして第三に、「学校での生活」について見ると、教師に対する見方に「効果のある学校」と「ない学校」との間で大きな違いが見られる、という興味深い結果が見出された。「先生は私の気持ちをわかってくれている」「先生は私に期待をかけてくれる」「ふだん、学校で先生と話をする」という3つの項目すべてについて、両者の数値には大きな開きが見られたのである。つまり、「効果のある学校」と「ない学校」とでは、教師と子どもの関係づくりにおいて大きな差異があるという結果が出てきたのである。

第四に、子どもたちの意識について問うた項目に関しては、表の下段にあげた4つの項目(自尊感情についてたずねた設問18で2つ、勉強観についてたずねた設問19で2つ)について有意差が見られた。まとめて言うなら、「効果のある学校」の子どもたちは、対人関係に関してより自信を有しており、また学校での勉強についてもよりポジティブな考え方を持っているという結果が導き出されたのである。

全体を通して言うなら、「効果のある学校」の子どもたちは、より積極的な学習態度・学習習慣を有しており、教師やその他の周囲の他者とより良好な人間関係を築いているということである。そして、この両者の間には深い関連があることも、容易に推測がつくところである。教師と子どもの信頼関係に裏打ちされた学級集団のポジティブな雰囲気のなかで、子どもたちの学習習慣が着実なものに形成され、さらなる学習意欲が喚起されるということをこのデータは物語っていると考えてよいだろう。

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